前回は、医療DX・デジタル化、特に今回は「生成系AI」や「基盤モデル」と呼ばれる次世代AI技術と、「医療・健康データ」を取り上げ、具体的にどのような価値が創造されるか、次世代デジタル医療の3つのキーワードを説明しました。
今回は、この新たな技術を手にいれ、医療・健康データを組み合わせた人類が、どのような新しい価値と創出できるかについて、解説します。


創出される革新的サービス・ビジネス

デジタルが、健康のためにできること:デジタル医療・デジタルセラピューティクス
生活習慣病とは、文字通り、普段の「生活習慣」が原因で発症する病気のことです。例えば、不健康な食事、運動不足、喫煙、過度な飲酒などが原因となります。代表的な生活習慣病には、高血圧、糖尿病、心臓病、脂質異常症(高コレステロール)などがあります。生活習慣が原因ですので、生活習慣病を予防・治療するためには、生活習慣を改善する、つまり行動変容が根本的な予防・鍵です。
ところで、デジタル技術で、がんを直接取り除いたり、体内のウイルスそのものを薬理作用で排除することはできません。他方で、手術で禁煙できたり、薬で野菜が食べたり運動量が増えたりすることもありませんよね。私たちが、何かを選択したり、行動したりするのは、私たちの高次脳機能である認知機能の役割です。生活習慣病の根本的な予防・治療のためには、認知機能をサポートしたり、働きかけることが重要であり、私たちの行動変容が最も重要です。それを支えるのがデジタル医療・デジタルセラピューティクスです。

行動変容を促す医療機器プログラム
「行動変容を促す医療機器プログラム(SaMD(Software as a Medical Device)とも呼ばれます)」は、個々の健康状態を詳細に把握し、個別に最適化された介入を行うことで、健康改善の行動を促すことを目的とします。
具体的には、スマートフォンやウェアラブルデバイスを使用して収集されたデータをAIが解析し、利用者に対してパーソナライズされたアドバイスやリマインダーを提供します。これにより、利用者は健康的な行動を継続しやすくなり、予防医療や慢性疾患の管理が効果的に行われることが期待されます。
政策の動向
日本政府も、医療・健康分野における行動変容を促す医療機器プログラムの開発と普及に積極的に取り組んでいます。
例えば、厚生労働省と経済産業省は、プログラム医療機器(SaMD)の更なる実用化と国際展開を目指す「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2」を、2023年9月に発表しました。主要な目標は、薬事承認と保険適用の予見可能性を高め、国内外での開発と市場導入を促進することです。具体的には、二段階承認の考え方や家庭向けSaMDの審査指針の整理、優先的な審査の試行、PMDAの体制強化、国際展開支援などが含まれます。これにより、革新的なSaMDの早期実用化と市場獲得を目指ししています(厚生労働省・経済産業省, 2023)。
また、2024年度の診療報酬改定では、プログラム医療機器の使用に係る指導管理の評価(プログラム医療機器等指導管理料)が導入され、医療機器を用いた治療行為が適切に評価され、診療報酬として支払われる仕組みが整備されています(厚生労働省, 2024)。
さらに、経済産業省は、「医療・健康分野における行動変容を促す医療機器プログラムに関する開発ガイドライン」を策定しています。このガイドラインは、開発者が法規制に準拠した製品を効率的に開発できるよう支援するもので、製品の設計・開発から市場投入までのプロセスを詳細に説明しています(経済産業省, 2023)。
このように、日本政府はデジタル技術と革新的な医療機器の融合を通じて、個々の健康管理を支援し、医療サービスの質を向上させるための取り組みを進めています。
パブリックセクターもさまざまな支援をしてくれているので、新たな価値を産み出し患者さんに届けるのは、私たち医療者や起業家等の事業者の役割です!
行動変容のためのSaMD:具体的な例
次に、行動変容のためのSaMDがどのように役に立つのか、具体的な例を見てみましょう。
以下の図では、パーソナライズドAIを活用して、Aさん、Bさん、Cさんの個人データを基にした最適なメッセージを送信する例を示しています。
例えば、個人の好みや認知のクセをパーソナライズドAIが理解して、リスク愛好的のAさんには「痩せるともっとかっこよくなりますよ!」とサラダを勧め、ライフログの行動履歴を元に食事の傾向がわかっているBさんには「この時期、夜は鍋が暖まりますよ」と寄せ鍋を提案し、リスク回避的なCさんには「このままの食事だと次の血液検査が心配です」と野菜を促します。

このように、パーソナライズドAIは個々の生活習慣や医療情報を活用して、最適な行動変容を促進します。個々の認知特性を理解し、パーソナライズされた助言とナッジを通じて行動変容を促進することができます。個人のリスク選好や時間割引率に基づいた最適な行動をサポートし、健康的な生活習慣を手助けします。

個別化医療のためのデジタル技術
前回も述べたように、デジタル化、特に「生成系AI」や「基盤モデル」と呼ばれる次世代AI技術と、「医療・健康データ(特に時系列データ)」を組み合わせれば、より詳細な個別化医療が可能となります。
プレシジョンメディスン(精密医療)は、患者一人一人の遺伝的、環境的、およびライフスタイルの違いを考慮して最適な治療法を提供するアプローチです。このアプローチは、従来の「一律」な治療法とは異なり、個別化医療の視点を重視しています。
プレシジョンメディスンの中核にはゲノム解析がありますが、さらに、ビッグデータとAIの活用により、膨大な医療データを解析し、個々の患者に最適な治療法を見つけるためのアルゴリズムの開発が可能となるでしょう。これにより、より精度の高い診断と治療が可能となります。個別化医療の概念に基づき、各患者の特性に合わせたオーダーメイドの治療プランを設計することで、治療効果の向上と副作用の軽減が期待されます。
医療DXの進展も、プレシジョンメディスンを後押ししています。電子カルテ(EHR)の普及により、医師は患者の医療データに迅速にアクセスできるようになり、ウェアラブルデバイスやスマートフォンアプリを通じてリアルタイムで健康状態をモニタリングし、個別の治療計画を立てることが可能です。また、遠隔医療・オンライン診療の利用が広がり、地理的な制約を超えて専門的な医療を提供できるようになっています。
プレシジョンメディスンと個別化医療の利点としては、治療効果の向上、副作用の軽減、そして疾患の早期発見と予防が挙げられます。もちろん、コストやデータプライバシー、技術普及の課題も存在します。
このように、プレシジョンメディスンは医療の未来を切り拓く革新的なアプローチとして注目され、デジタル技術の進展とともに、より効果的かつ効率的な医療提供を実現し、患者の生活の質(QOL)向上に貢献しています。個別化医療の視点を取り入れることで、さらにパーソナライズされた治療が可能となり、患者一人一人に対して最適なケアを提供することができます。

我々が享受した医療を、次世代に引き継ぐため:オープン・イノベーション
前回、ウェアラブルデバイスや行動経済学に基づく認知傾向などから得られる時系列データ、さらにはゲノムレベルの分子レベルデータに至るまで、膨大な個人データを活用することで、一人ひとりの全体像をモデル化する技術「いのちの方程式」をご紹介しました。
X線の発見者であるヴィルヘルム・レントゲンは、彼の技術は、科学の発展を万人に寄与するものとすべきと考えました。現代では、ChatGPTなどの大規模言語モデルに代表される基盤モデルのような次世代AI技術は、人類が共有すべき必須の技術と考えられています。CharGPTを開発するOpenAIも、「Our mission is to ensure that artificial general intelligence benefits all of humanity.(私たちのミッションは、汎用人工知能が全人類に利益をもたらすことを確実にすることです。)」というミッションを掲げています。
私が開発する「いのちの方程式®」も、我々が享受した医療を次世代に引き継ぐために、健康医療分野におけるAI技術の基盤のひとつして、また人類で共有すべき医療・医学の必須技術として、医療の持続可能性・発展に向けてオープンイノベーションのために活用したいと思っています。

主に経済学と情報技術の分野で用いられる用語で、「ネットワーク効果」というものがあります。ネットワーク効果とは、製品やサービスの価値が利用者の数が増えるにつれて向上する現象です。例えば、ソーシャルメディアでは多くの友人が参加することでプラットフォームの魅力が増し、さらに新たなユーザーを引き付ける好循環が生まれます。
同様に、大規模な学習モデルでは、投入されるデータ量が増えるほど精度が向上し、より多くの価値を提供できるようになります。このように、ネットワーク効果は利用者数の増加に伴い、全体の価値を高める重要な要素となります。
今後は、健康医療に関するさまざまなデータを統合し、また、関連する学際的な専門知識・技術をも組み合わせた、共創型イノベーション・オープンイノベーションがより重要になるでしょう。

医療分野の新規事業開発・スタートアップ支援プログラム
TrueNorth Innovation
私が代表を務める合同会社ディケイズでは、革新的なアイデアを現実に変えることに情熱を持つ医療従事者・研究者個人や事業会社等の法人を対象を対象とした、医療分野の新規事業開発・スタートアップ支援プログラム「TrueNorth Innovation」を提供しています。
TrueNorth Innovationでは、医療従事者、大学等の研究者、事業会社を対象とし、それぞれの専門知識や経験を活かして事業化をサポートするプログラム「TrueNorth Meet」を実施しています。医療従事者には診療活動での課題解決を、研究者には革新的な技術やアイデアの市場導入を、事業会社には健康・医療分野での新規事業展開を、具体的にステップバイステップで支援します。
前回と今回、ご紹介したような医療AI・データサイエンスを活用した革新的なデジタル・プロダクトを作りたい!などを思われた方は、TrueNorth Meet 第1期(モニター・無料)募集中ですので、ご連絡ください。

参考文献
- 厚生労働省医薬局医療機器審査管理課・経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室. (2023) 『プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2』. Available at: https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/devices/0018.html (Accessed: 21 May 2024).
- 厚生労働省 (2024). 診療報酬改定2024. [online] Available at: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000067910.html [Accessed 20 May 2024].
- 経済産業省 (2023). 医療・健康分野における行動変容を促す医療機器プログラムに関する開発ガイドライン. [online] Available at: https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/202303.55.pdf [Accessed 20 May 2024].
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