[Medical Generative AI: G5] AI界の「OS」?——医療を変える基盤モデルと、その全体像

目次

TL; DR (要約)

AI開発は、タスク毎の専用ツール作りから、まず超強力な「汎用エンジン」を創り、それを各分野の専門ツールに調整する時代へ。
その革命の中心にあるのが基盤モデル (Foundation Model) です。

① 革命のエンジン
(Transformer)

Attention機構により、文脈の深い理解が可能に。AIの巨大化と高性能化を実現した、現代AIの心臓部です。

② モデルの育て方
(2段階学習)

事前学習: Web全体の膨大なデータで「一般教養」を学習。
ファインチューニング: 医療論文などで「専門知識」を教え込み特化。

③ 専門AIと入手方法
(Med-PaLM, Hugging Face)

結果としてMed-PaLM等の「医療専門AI」が誕生。Hugging Face等のサイトで、多くのモデルが公開・利用可能です。

この章の学習目標1. 基盤モデルの概念: 特定のタスク専用ではない、汎用的な大規模AIモデル(基盤モデル)の考え方を理解する。
2. Transformerの役割: 基盤モデルの発展を支える、TransformerアーキテクチャとAttention機構の重要性を説明できる。
3. 事前学習とファインチューニング: 基盤モデルが「汎用的な知識」と「専門的なスキル」をどう獲得するのか、その2段階の学習プロセスを理解する。
4. 医療特化型モデル: なぜ医療分野で特化型の基盤モデルが必要とされ、どのようなモデルが存在するのかを知る。
前提となる知識・第2回で学んだ深層学習とニューラルネットワークの基本的な概念
・第3回で触れた、医療における多様なデータ形式への理解

はじめに:AI開発のパラダイムシフト

AIの世界にいると、時折、これまでの常識がまるで地殻変動のように、根底から変わる瞬間に立ち会うことがあります。私にとって、この「基盤モデル(Foundation Model)」の登場は、まさにそんな体験でした。

これまでのAI開発は、いわば「タスクごとに専用の工具を作る」ようなアプローチが主流でした。X線写真から結節を見つけるためのAI、心電図から不整脈を検出するためのAI——それぞれが、特定の課題解決のために、ゼロから設計され、そのタスク専用のデータで訓練されるのが一般的だったのです。

従来のアプローチ基盤モデルのアプローチ
例えタスク毎に特化した「専用工具」を作る汎用的な「高性能エンジン(OS)」を先に作る
開発プロセス課題ごとに、ゼロからデータを集め、モデルを設計・学習巨大なエンジンを、各課題に合わせて微調整(ファインチューニング)
効率性非効率。開発ノウハウが再利用しにくい非常に効率的。エンジンの性能を様々なタスクに活かせる

しかし、近年のAI開発、特に生成AIの世界では、この考え方が大きく変わりました。個別の道具を一つひとつ作るのではなく、まず、極めて強力で汎用的な「エンジン」や「OS(オペレーティングシステム)」を作り、それを様々な目的に合わせて微調整(カスタマイズ)する、というアプローチが主流になったのです。

この、汎用的で再利用可能な大規模AIモデルのことを、スタンフォード大学人間中心AI研究所(HAI)が提唱した基盤モデル(Foundation Model)という言葉で呼びます(4)。今話題のChatGPTのベースとなっているGPTシリーズや、本講座で今後頻繁に登場する様々なモデルは、すべてこの基盤モデルの一種です。

この第4回では、現代医療AIの中核を成すこの「基盤モデル」とは一体何なのか、その心臓部にある技術から、医療分野での特化、そして私たちが実際にそれを使うための第一歩まで、その全体像を掴んでいきましょう。

なお、本記事は各トピックの概要を掴んでいただくためのサマリーです。Transformerの数理的な詳細や、ファインチューニングの具体的なプログラミング実装については、今後の記事でエンジンフードを開けて、一つひとつの部品をじっくりと見ていきますので、ご安心ください。

4.1 AIの進化を牽引するエンジン:TransformerとAttention機構

前のセクションで、私たちは現代のAI開発が「高性能エンジン」としての基盤モデルの上に成り立っている、という大きな絵を見ました。では、その革命的なエンジンを動かす、核心的な設計思想とは一体何なのでしょうか。その答えが、2017年に発表された一本の論文「Attention Is All You Need」で提案された、Transformer(トランスフォーマー)というアーキテクチャです(1)。

このTransformerの登場以前と以後で、AI、特に言語を扱うモデルの世界は、全く別の景色になったと言っても過言ではありません。

「逐次処理」から「並列処理」へ:AIの思考様式の革命

Transformer登場以前の代表的なモデル、例えばRNNやLSTM(第7回参照)は、データを逐次的(Sequential)に処理していました。これは、私たちが本を読むときのように、文章の先頭から一単語ずつ順番に読み進め、前の単語の記憶を頼りに次の単語を理解していく方法です。この方法は直感的ですが、大きな弱点がありました。

  • 長期記憶の問題: 長い文章になると、最初の方に書かれていた重要な情報を忘れてしまい、文末の解釈に活かせない(勾配消失問題)。
  • 計算速度の問題: 一つ前の計算が終わらないと次の計算に進めないため、処理を並列化できず、モデルの巨大化や学習の高速化に限界がありました。

Transformerは、この「一単語ずつ」という常識を覆し、文章全体を並列的(Parallel)に、つまり「一度にまとめて」処理するアーキテクチャを提案しました。

直感的なイメージ:
熟練の臨床医が、1ページのサマリーを読む場面を想像してください。

  • RNN/LSTMの読み方: 一行目から順番に、最後までひたすら読み進める。
  • Transformerの読み方: まず、そのページ全体にざっと目を通し、瞬時に「“心不全”という単語は、3行目の“BNP高値”と、8行目の“フロセミド投与”と強く関連しているな」というように、ページ内のあらゆる単語間の関連性を一気に見抜く。
データ処理方法の比較 逐次処理 (RNN/LSTM) データが一列に並び、一つずつ順番に処理される。前の処理が終わらないと次に進めない トークン1 トークン2 トークン3 トークンN 処理時間: 長い(順次実行のため) 並列処理 (Transformer) 全てのデータが一度に参照され、全ペア間の関連性が計算される トークン1 トークン2 トークン3 全ペア間で 相互接続 処理時間: 短い(並列実行のため) 双方向の関連性計算

革命の核心:Attention機構

この画期的な並列処理を可能にしたのが、Transformerの心臓部であるAttention(アテンション)機構です。

これは、入力されたデータ系列(例えば、文章中の全単語)の中から、ある一つの単語を解釈する際に、「系列内の、他のどの単語に、どれくらいの強さで“注意”を向けるべきか」という重み(Attention Weight)を、全ての単語の組み合わせについて一気に計算する仕組みです。

このおかげで、Transformerは、RNNが苦手としていた、文の離れた場所にある単語同士の長期的な依存関係(例えば、文頭の主語と文末の述語の関係)も、的確に捉えることができます。

この「並列処理能力」「長期依存性の克服」という2つのブレークスルーが、重要な意味を持ちました。

  • 一つは、GPU(Graphics Processing Unit)の並列計算能力を最大限に活用できるようになったことで、これまでとは比較にならないほど巨大なモデルの学習が可能になったこと。
  • もう一つは、その巨大なモデルが、長い文脈を正確に理解できるようになったことで、AIの性能そのものが飛躍的に向上したことです。

基盤モデルというパワフルなエンジンを動かすための、革命的な設計図。それが、このTransformerアーキテクチャなのです。この設計図を手に入れたことで、AI開発者たちは、全く新しいスケールでモデルを訓練するようになりました。次のセクションでは、その具体的な訓練プロセスについて見ていきましょう。

4.2 基盤モデルの作り方:事前学習とファインチューニングという「二段ロケット」

前のセクションで、私たちはTransformerという革命的な「設計図」を手に入れました。では、この設計図を元に、巨大な「エンジン」、すなわち基盤モデルは、一体どのようにして組み立てられ、教育されていくのでしょうか。

そのプロセスは、多くの場合、「事前学習(Pre-training)」「ファインチューニング(Fine-tuning)」という、明確に分かれた2つのステージで構成されます。私はこれを、目的の衛星を宇宙の特定の軌道に投入するための「二段式ロケット」に例えて考えています。

Stage 1: 事前学習 (Pre-training) – 汎用エンジンを成層圏へ運ぶ、第一段ブースター

まず、第一段の巨大なブースターロケットが、重いペイロード(AIモデル)を大気圏の外、つまり汎用的な知識が広がる空間へと打ち上げます。これが事前学習です。

目的と手法:自己教師あり学習

ここでの目的は、特定の質問に答えることではありません。言語そのものが持つ構造、文法、単語間の関係性、そしてその背景にある世界の常識といった、汎用的で広範な知識をモデルに獲得させることです。

そのために、自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)という、非常に賢い学習方法が用いられます。人間が正解ラベル(教師)を用意する必要がないため、この名がついています。

直感的なイメージ:
AIに、インターネット上にある無数の文章から、ランダムに単語を隠した「穴あき問題」を、何十億、何兆回と解かせ続けるのです。

「吾輩は __ である。名前はまだ無い。」

この空欄 __ に入る単語を、AIは文脈から「猫」であると予測する訓練を繰り返します。この単純なタスクを通じて、AIは「吾輩」という一人称と「猫」という名詞が結びつきやすいことや、日本語の文法構造を、人間からの明示的な指示なしに、データそのものから自ら学習していくのです。

スケールと結果

この事前学習には、Web上のテキスト全体に匹敵するほどの超巨大なデータセットと、スーパーコンピュータ級の莫大な計算リソース、そして長い時間が必要です。そのため、この「第一段ブースターロケット」を開発・打ち上げできるのは、今のところ巨大IT企業などに限られています。こうして生まれたのが、「博識だが、特定の専門性はない、汎用エンジン」としての基盤モデルです。

Stage 2: ファインチューニング (Fine-tuning) – 特定の軌道に乗せる、第二段エンジン

事前学習を終えたモデルは、いわば「医学部を卒業したばかりの優秀な研修医」のようなものです。基礎医学や一般常識は完璧ですが、まだ特定の診療科の専門知識や、臨床現場での「お作法」は身についていません。

ファインチューニングは、この研修医を、例えば「循環器内科」に配属させ、専門の論文、診療ガイドライン、症例報告といった高品質なデータを集中して学ばせる「専門研修」のプロセスに他なりません。

この段階では、より小規模で、質の高い、目的に特化したデータセットを用います。事前学習に比べ、計算リソースも時間も格段に少なくて済むため、私たち大学の研究室や個々の開発者レベルでも実施が可能です。この「第二段エンジン」の噴射によって、汎用モデルは特定のドメイン知識を獲得し、「医療に詳しい、専門ツール」へと進化を遂げるのです。

観点事前学習 (Pre-training)ファインチューニング (Fine-tuning)
目的広範な一般知識・言語能力の獲得特定の専門分野・タスクへの適応
学習データWeb全体、書籍など(超大規模・玉石混交)医療論文、診療ガイドライン、Q&Aなど(小規模・高品質)
計算コスト極めて大きい(巨大IT企業レベル)比較的小さい(大学・研究室レベルでも可能)
成果物汎用的な基盤モデル(博識な研修医)特化型モデル(特定の専門医)
基盤モデルの学習プロセス:二段階の進化 Stage 1: 事前学習 (Pre-training) 目的: 世界の幅広い知識(文法、常識、論理)を学ぶ データ: インターネット 全体 書籍 データ 超巨大な 汎用データ など… 結果物: 汎用基盤モデル (例: GPT-4, Llama) 巨大でパワフルだが、 専門性はまだない Stage 2: ファインチューニング (Fine-tuning) 目的: 特定の専門分野やタスクに適応させる データ: 医療論文 診療 ガイドライン 医療Q&A 高品質な 専門データ 結果物: 医療特化型モデル (例: Med-PaLM) 1 2

こうして、汎用的な巨大エンジンが、特定の専門性を持つツールへと生まれ変わります。では、このファインチューニングというプロセスを経て、「医療専門」のエンジンには、どのようなものが存在するのでしょうか。次のセクションでは、その最前線を見ていくことにしましょう。

4.3 医療特化型基盤モデルの世界:Med-PaLM, Bio-GPTなど

前のセクションで、私たちは「事前学習」という巨大なロケットで汎用エンジンを打ち上げ、その後に「ファインチューニング」という第二のロケットで、目的に合わせた軌道に乗せる、という基盤モデルの育成プロセスを見てきました。

このセクションでは、その第二ロケットの燃料に「医療」という最高品質のものを入れたら、一体何が起こるのか——つまり、なぜ医療分野で特化型の基盤モデルが必要とされ、どのようなモデルが開発されているのかを探っていきます。

なぜ「専門医」AIが必要なのか?

一般的なLLMは、インターネット上の膨大な情報から学習しており、その知識量は驚異的です。それは、あらゆる科の知識を広く持つ、非常に優秀な「総合診療医」に例えられるかもしれません。しかし、私たちが複雑な心臓手術について相談したいとき、あるいは稀な遺伝性疾患の最新の治療法について知りたいとき、本当に頼りにするのは「心臓血管外科の専門医」や「臨床遺伝専門医」ですよね。

医療AIも全く同じです。汎用LLMは、医療に関する質問にも一見もっともらしい回答をしますが、そこにはいくつかの深刻なリスクが潜んでいます。

リスクの種類具体例
情報の不正確さ・幻覚(Hallucination)存在しない薬剤名を生成したり、医学的に誤った治療法を断定的に推奨したりする。
専門用語・文脈の誤解臨床現場で使われる特有の略語や言い回しを誤解する。例えば、検査結果の「negative」を「悪い結果」と解釈してしまうなど。
知識の鮮度の問題学習データが古い場合、最新の診療ガイドラインやエビデンスを反映できず、時代遅れの推奨をしてしまう。

こうしたリスクを乗り越え、医療の現場で真に信頼されるパートナーとなるためには、医療データで徹底的にファインチューニングされた「専門医」AIが必要不可欠なのです。

世界で開発が進む、2種類の「専門医」AI

現在、医療特化型モデルは、その学習データと得意な領域によって、大きく2つのタイプに分類できると私は考えています。

① 臨床推論・対話に強い「臨床医タイプ」のAI (例: Med-PaLM)

このタイプのAIは、まさに臨床医のように、患者情報から鑑別診断を考えたり、複雑な質問に答えたりといった、臨床推論(Clinical Reasoning)の能力を磨くことを目的としています。

その代表格が、Google社が開発したMed-PaLMおよびその後継モデルです(2, 3)。これらのモデルは、一般的な知識に加えて、医療Q&Aデータセットや、米国の医師国家試験(USMLE)の問題などでファインチューニングされています。特にMed-PaLM 2は、このUSMLEで「Expert(専門家)」レベルのスコアを達成し、その高い臨床知識と推論能力で世界に衝撃を与えました。

② 生物医学文献の読解に強い「研究者タイプ」のAI (例: BioGPT)

もう一方は、膨大な数の学術論文を読み解き、生命科学の深い文脈を理解することに特化したAIです。Microsoft社が開発したBioGPTや、フロリダ大学が開発したGatorTronなどがこれにあたります。

これらのモデルは、生物医学分野の論文データベースであるPubMedの抄録などを大量に学習しています。そのため、最新の研究動向の要約、新しい治療法の仮説生成、創薬ターゲットの探索といった、研究開発活動を支援する場面で大きな力を発揮します。

観点汎用LLM (例: GPT-4)医療特化型LLM (例: Med-PaLM)
主な学習データWebテキスト、書籍など(一般的・広範)医療Q&A、医学文献、診療ガイドラインなど(専門的・高品質)
得意なこと日常会話、一般的な文章作成、創造的なタスク臨床的な質問への回答、医療文書の要約、医学情報の検索
弱点・リスク医療情報の不正確さ、ハルシネーションのリスクが高い学習データに含まれない、最新の非医療分野の知識は相対的に乏しい

このように、医療に特化したパワフルなモデルが、今、次々と登場しています。では、私たちはどうすれば、この専門医のようなAIたちに「コンサルト」することができるのでしょうか。次のセクションでは、そのための最も身近な入り口であるHugging Faceについて見ていきましょう。

4.4 Hugging Face入門:公開モデルを使ってみよう

「こんなにすごいモデル、一部の巨大企業しか使えないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、幸いなことに、多くの基盤モデルがHugging Face(ハギングフェイス)というプラットフォーム上でオープンソースとして公開されており、私たちも比較的簡単に利用することができます(5)。

AI界の「スーパーマーケット」へようこそ

Hugging Faceは、AI開発者にとっては、プログラムコードを共有する「GitHub」のような存在だとよく言われます。例えるなら、AIモデルの巨大な「スーパーマーケット」のようなものです。

世界中の企業や大学の研究者が丹精込めて開発した、様々な「品種」のAIモデル(基盤モデル)が、その性能や使い方、そしてオープンソースのライセンス情報と共に、整然と陳列されています。私たちは、このスーパーマーケットを訪れ、自分の目的に合ったモデルをカートに入れ、手元で試してみることができるのです。

最も簡単な「試食コーナー」:pipeline機能

このスーパーマーケットには、とても便利な「試食コーナー」が用意されています。それが、Hugging Faceのtransformersライブラリに含まれるpipelineという機能です。

pipelineは、

  1. 前処理: 人間が書いたテキストを、AIが理解できる数値データに変換する。
  2. モデル推論: データをAIモデルに通して、予測結果を出力する。
  3. 後処理: AIが出力した数値データを、人間が理解できるテキストに戻す。

といった一連の面倒な処理を、全て一つにまとめて自動で実行してくれます。これにより、私たちはモデルの内部構造を深く知らなくても、そのモデルの能力の一端を、まるで試食するように手軽に体験できるのです。

ハンズオン:AIの「語彙力」を試してみる

では、実際にpipelineを使って、公開されている日本語基盤モデルの能力を試してみましょう。ここでは、東北大学が開発した、日本語の文脈理解に定評のあるBERTモデルcl-tohoku/bert-base-japanese-whole-word-masking(Apache 2.0 Licenseで公開)を使ってみます(6)。

タスクは「穴埋め問題(Fill-Mask)」です。文章の一部を[MASK]という特殊な記号で隠し、AIが文脈を読んで、そこにどんな単語が入るのが最も自然かを予測させます。これは、AIの言語理解能力を試すための、シンプルで良いテストになります。

【実行前の準備】以下のコードを実行するには、あらかじめターミナルやコマンドプロンプトで、AIモデルを動かすためのライブラリ群をインストールしてください。

pip install transformers torch fugashi ipadic unidic_lite

  • transformers, torch: AIモデル(PyTorchベース)を動かすための基本ライブラリです。
  • fugashi, ipadic, unidic_lite: 日本語の文章を単語に正しく分割するためのライブラリと辞書です。今回のモデルでは内部でこれらを利用します。

# transformersライブラリからpipelineという便利な機能をインポートします
from transformers import pipeline

# 「fill-mask」というタスク(マスクされた単語の予測)を指定します
# model= に、Hugging Faceで公開されているモデルの名前を指定します
unmasker = pipeline('fill-mask', model='cl-tohoku/bert-base-japanese-whole-word-masking')

# マスクされたトークンを含む文章を入力し、AIに予測させます
# [MASK]の部分に何が入るかを、AIが文脈から推測します
result = unmasker("高血圧の患者に[MASK]を処方した。")

# 結果はリスト形式で返ってくるので、forループで一つずつ取り出して表示します
# 上位5つの予測候補が、スコア(確信度)と共に表示されます
for res in result:
    # f-stringを使って、結果を分かりやすく整形して出力します
    print(f"単語: {res['token_str']}, スコア: {res['score']:.4f}, 文: {res['sequence']}")

【実行結果のイメージ(実際のものとは異なります)】


単語: 降圧薬, スコア: 0.1495, 文: 高血圧 の 患者 に 降圧薬 を 処方 し た 。
単語: カルシウム拮抗薬, スコア: 0.0573, 文: 高血圧 の 患者 に カルシウム 拮抗 薬 を 処方 し た 。
単語: 薬, スコア: 0.0387, 文: 高血圧 の 患者 に 薬 を 処方 し た 。
単語: 降圧剤, スコア: 0.0369, 文: 高血圧 の 患者 に 降圧剤 を 処方 し た 。
単語: Ca拮抗薬, スコア: 0.0312, 文: 高血圧 の 患者 に Ca 拮抗 薬 を 処方 し た 。

いかがでしょうか。AIが、単に「薬」といった一般的な単語だけでなく、「降圧薬」や「カルシウム拮抗薬」といった、医学的な文脈において極めて妥当な専門用語を上位候補として挙げていることが分かります。これは、この基盤モデルが、膨大なテキストデータから「高血圧」「患者」「処方」といった単語の共起関係を学び、その文脈を正しく理解していることの証左です。

このように、Hugging Faceというプラットフォームのおかげで、私たちは強力な基盤モデルの能力を、自分の手元で、数行のコードを書くだけで簡単に試すことができるのです。

まとめ:基盤モデルは、医療AI開発の新しい「OS」

今回は、現代の医療AIを理解する上で避けては通れない「基盤モデル」の全体像を概観しました。

  1. Transformer/Attention: 基盤モデルを可能にした、革命的な「アーキテクチャ」。
  2. 事前学習とファインチューニング: 汎用的な知識と専門的なスキルを獲得するための「学習プロセス」。
  3. 医療特化型モデル: 医療の現場で安全かつ高精度に機能させるための「専門化」。
  4. Hugging Face: これらの強力なモデルを、私たちが利用するための「プラットフォーム」。

基盤モデルは、これからの医療AI開発における、いわばOS(オペレーティングシステム)のような存在です。このOSの上で、私たちは様々な専門アプリケーション(診断支援、創薬、対話システムなど)を構築していくことになります。このパワフルなOSをどう理解し、どう使いこなし、そしてどう責任を持って応用していくか。それが、これからの医療AI開発者に求められる、最も重要なスキルセットの一つと言えるでしょう。

参考文献

  1. Vaswani A, Shazeer N, Parmar N, Uszkoreit J, Jones L, Gomez AN, et al. Attention is all you need. In: Advances in Neural Information Processing Systems 30. Curran Associates, Inc.; 2017. p. 5998-6008.
  2. Singhal K, Azizi S, Tu T, Mahdavi SS, Wei J, Chung HW, et al. Large Language Models Encode Clinical Knowledge. Nature. 2023 Aug;620(7973):172-180.
  3. Singhal K, Tu T, Gottweis J, Sayres R, Wulczyn E, Hofer M, et al. Towards expert-level medical question answering with large language models. arXiv preprint arXiv:2305.09617. 2023 May 16.
  4. Bommasani R, Hudson DA, Adeli E, et al. On the opportunities and risks of foundation models. arXiv preprint arXiv:2108.07258. 2021 Aug 16.
  5. Wolf T, Debut L, Sanh V, Chaumond J, Delangue C, Moi A, et al. Hugging a Transformer. In: Proceedings of the 2020 Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing: System Demonstrations. 2020. p. 3-8.
  6. Devlin J, Chang MW, Lee K, Toutanova K. BERT: Pre-training of deep bidirectional transformers for language understanding. In: Proceedings of the 2019 Conference of the North American Chapter of the Association for Computational Linguistics: Human Language Technologies, Volume 1. 2019. p. 4171-4186.

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この記事を書いた人

医師・医学博士・AI研究者・連続起業家
元厚生労働省幹部・ハーバード大学理学修士・ケンブリッジ大学MBA・コロンビア大学行政修士(経済)
岡山大学医学部卒業後、内科・地域医療に従事。厚生労働省で複数室長(医療情報・救急災害・国際展開等)を歴任し、内閣官房・内閣府・文部科学省でも医療政策に携わる。
退官後は、日本大手IT企業や英国VCで新規事業開発・投資を担当し、複数の医療スタートアップを創業。現在は医療AI・デジタル医療機器の開発に取り組むとともに、東京都港区で内科クリニックを開業。
複数大学で教授として教育・研究活動に従事し、医療関係者向け医療AIラボ「Medical AI Nexus」、医療メディア「The Health Choice | 健康の選択」を主宰。
ケンブリッジ大学Associate・社会医学系指導医・専門医・The Royal Society of Medicine Fellow

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