これまで何回か「深層学習」のお話をしてきましたが、そもそも「深層」とはどういう意味でしょうか?
「深そうだけど、いったい何が深いの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。
そこで本記事では、「深層学習の『深層』とは何か!?何が深イイのか!?」を分かりやすく解説し、具体的な医療応用の例も紹介します。「なるほど、そういうことだったのか!」とスッキリ理解できるよう、一緒に見ていきましょう。
深層学習とは?脳の仕組みにヒントを得た「多層構造」
人間の脳をまねたしくみ:ニューラルネットワーク
過去の記事でも解説したように、深層学習(ディープラーニング)は、「ニューラルネットワーク」という仕組みに基づいています。これは、人間の脳にある無数の神経細胞(ニューロン)が層状につながって情報を処理するしくみを模倣したモデルです。典型的には下図のように、「入力層」「隠れ層(中間層)」「出力層」の 3 つの層に分けて考えます。

- 入力層:画像や音声などのデータを受け取る層
- 隠れ層(中間層):入力データを中間的に処理して特徴を抽出する層(1 層だけとは限らず、複数重なる)
- 出力層:最終的な結果(たとえば「猫か犬か」「腫瘍があるかないか」など)を出力する層
このうち「隠れ層」をたくさん重ねた構造を「深層(ディープ)なネットワーク」と呼ぶため、その学習手法が「深層学習(ディープラーニング)」と名づけられています。
「深層」と呼ばれる理由
脳と同じように多段階で情報を処理できるからこそ、「深い層」に進むほどより複雑なパターンを学習できるのが大きなポイントです。層が増えることで、単純な特徴(線や色の濃淡)から始まり、より抽象的な概念(たとえば「猫の顔」「犬の体のイメージ」など)へと段階的に理解を進められるわけです。
隠れ層が多いと何が嬉しいの?~階層的に特徴を捉える~
低レベルから高レベルへ、段階的に理解する流れ
ここで、具体例として「X線画像に写っている腫瘍が、がんかどうかを判別する」という医療タスクを考えてみましょう。ディープラーニングでは、入力画像のピクセル情報が各層を通過するたびに、低レベルな特徴から高レベルな特徴へと“階層的”に変換されていきます。

- 第 1 層(低レベルの特徴抽出)
- 画像のピクセル情報に人工ニューロンを通して(「線形変換+非線形活性化関数」を適用)し、エッジ(輪郭線)や色の濃淡などの基本的な特徴を強調して抽出。
- 第 2 層(中レベルの特徴抽出)
- 第 1 層で検出した線や色のパターンをさらに組み合わせ、形状や辺縁の特徴など、よりパーツレベルでの特徴を抽出。
- 第 3 層以降(高レベルの特徴抽出)
- パーツ情報を統合し、腫瘍の有無やその特徴を認識。最終的には「がんかどうか」を判定し、確率などの形で結果を出力。
このように、各層を経るごとに 「線 → パーツ → 全体のオブジェクト」 という具合に段階的な抽象化が行われるのです。
◆発展◆ 数学的にはどう実現しているのか?
各層では以下のような計算をしています。

こうした計算を層ごとに繰り返し、前層が捉えた特徴を引き継ぎつつ、より抽象度の高い特徴を強調していくわけです。
深層化によるパラメーター効率(少ないパラメーターで豊かな表現)
もうひとつ興味深い点として、“浅い層にただ大量のニューロンを詰め込む”よりも、“深い層を重ねる”ほうが パラメーター(重み:ニューラルネットワークの中の人工シナプス同士の繋がりの強さ。ここに情報が保存される)の総数が少なくて済む場合が多い ことが挙げられます。

- なぜパラメーターが少なくなるのか?
ネットワークが人工ニューロンを組み合わせる(「線形変換 + 非線形変換」を繰り返し合成する)ことで、複雑な関数を効率的に再利用しつつ表現できるからです。もし 1 層だけで同程度の複雑さを表現しようとすると、指数的に多くのユニットを要する可能性があります。 - たとえるなら…
- 深いネットワーク:機能をモジュールごとに少しずつ積み上げる、再利用可能なプログラムのイメージ
- 浅いネットワーク:すべてを一気に書き下そうとして、結果的にパラメーターが膨大になるイメージ
このように多層で段階的に特徴を組み合わせていく構造が、パラメーター効率の良い(かつ豊かな)表現能力を生み出すと考えられています。もちろん最終的な性能は ネットワーク構造設計 や 学習データの量 などにも左右されますが、一般的に「深層」であることはディープラーニングの大きなメリットなのです。
「深い」からこそ高精度を実現:医療分野の事例を中心に
医療画像診断
深層学習の多層構造は、医療現場にも大きなインパクトを与えています。
先ほどの例のように MRI や CT 画像から病変を検出するタスク では、人間の医師が見落としがちな微妙な特徴でも、ディープラーニングの「多層ネットワーク」が段階的に特徴を抽出して 高精度に『異常あり』と判断できる 可能性があります。
深層化により微細な特徴をしっかり捉えられるため、従来よりも精度・スピードの両面で診断をサポートできると期待されています。

📘 左:浅い(単層)ネットワーク
X線画像から「肺がん」「結核」「良性腫瘍」などを個別に判断。でも、「それが悪性か良性か」は人間が考える必要がある。
📗 右:深い(深層)ネットワーク
中の処理が複雑になっていて、多くのデータであらかじめ学習させていれば、「悪性か良性か」をAIが自動で判断できるようになる!
その他の医療応用例
- 肺がんの早期発見:CT 画像の極めて小さな結節を自動検知
- 糖尿病性網膜症の判定:眼底写真からのわずかな出血点や黄斑浮腫の兆候を抽出
- 心電図解析:不整脈などの異常パターンを高速検出
- ゲノム解析:膨大な遺伝子データから疾患リスクを推定
このように、複雑なデータに対して多段階で特徴を抽出し、高い精度の予測を可能にする深層学習の医療応用は今後ますます拡大すると考えられています。
どうやって学習するのか?誤差逆伝搬の仕組み(過去記事)
深層学習が自動で特徴を学習するために欠かせないのが、誤差逆伝搬(バックプロパゲーション) という仕組みで、過去記事でも解説しています。(【医療AI教室:Vol.5】「風が吹けば桶屋が儲かる」とAIの共通点!?AIの学習を可能にした秘密!)

大まかな流れは以下のとおりです。
- 順伝搬:入力 → 各層 → 出力 の順で予測値を得る
- 誤差(損失)計算:出力結果と正解ラベルとの差を損失関数で評価
- 逆伝搬:誤差を各層へさかのぼり、各重みがどの程度誤差に影響しているか(勾配)を計算
- 重み更新:勾配降下法などを用いて重みを最適化し、誤差を小さくする方向に調整
この反復プロセスによって、
- 第 1 層の重みは「エッジ抽出」に適した値に、
- 第 2 層の重みは「パーツ認識」に適した値に、
…といった具合に自律的に調整され、最終的には 高精度の分類モデル が完成します。
まとめ
「深層学習の深層って何?」という問いについて、要点を整理すると以下のとおりです。
- 深層(ディープ)=層をたくさん重ねたネットワーク
- 入力層・隠れ層・出力層が多層にわたって連結した構造のこと
- 層を重ねるほど高度な特徴やパターンを捉えられる
- 低レベルな線や色 → パーツレベル → 高レベルな抽象概念へと、階層的に学習が可能
- 深層化により、少ないパラメーターでも豊かな表現ができる
- 「線形変換+非線形変換」の合成を繰り返すことで、浅い構造より、複雑な現象を少ない関数・パラメーターで効率的に表現
- 医学などの分野で高精度な判断を実現
- MRI/CT 画像診断、音声認識、自然言語処理、自動運転など多方面で応用されている
一見難しそうに感じる深層学習ですが、その本質は「一つのニューロンが行っているようなシンプルな処理(線形変換+活性化関数)を複数回重ねて表現力を高める」ことにあります。これは人間の脳が段階的に情報を理解する流れにも似ていると言えるでしょう。
今後、ディープラーニング技術は医療分野をはじめ、私たちの日常を大きく変える可能性を秘めています。次に「深層学習」という言葉を見かけたら、「多層ネットワークを使って深い理解をするAIなんだな」とイメージしてみてください。
それでは最後にご一緒に、『深イイ!!』(「心のレバー」を前に倒す)

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