【医療AI教室:B6】深層学習は、何が「深イイ」のか!?

これまで何回か「深層学習」のお話をしてきましたが、そもそも「深層」とはどういう意味でしょうか?
「深そうだけど、いったい何が深いの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。

そこで本記事では、「深層学習の『深層』とは何か!?何が深イイのか!?」を分かりやすく解説し、具体的な医療応用の例も紹介します。「なるほど、そういうことだったのか!」とスッキリ理解できるよう、一緒に見ていきましょう。

目次

深層学習とは?脳の仕組みにヒントを得た「多層構造」

人間の脳をまねたしくみ:ニューラルネットワーク

過去の記事でも解説したように、深層学習(ディープラーニング)は、「ニューラルネットワーク」という仕組みに基づいています。これは、人間の脳にある無数の神経細胞(ニューロン)が層状につながって情報を処理するしくみを模倣したモデルです。典型的には下図のように、「入力層」「隠れ層(中間層)」「出力層」の 3 つの層に分けて考えます。

  • 入力層:画像や音声などのデータを受け取る層
  • 隠れ層(中間層):入力データを中間的に処理して特徴を抽出する層(1 層だけとは限らず、複数重なる)
  • 出力層:最終的な結果(たとえば「猫か犬か」「腫瘍があるかないか」など)を出力する層

このうち「隠れ層」をたくさん重ねた構造を「深層(ディープ)なネットワーク」と呼ぶため、その学習手法が「深層学習(ディープラーニング)」と名づけられています。

「深層」と呼ばれる理由

脳と同じように多段階で情報を処理できるからこそ、「深い層」に進むほどより複雑なパターンを学習できるのが大きなポイントです。層が増えることで、単純な特徴(線や色の濃淡)から始まり、より抽象的な概念(たとえば「猫の顔」「犬の体のイメージ」など)へと段階的に理解を進められるわけです。

隠れ層が多いと何が嬉しいの?~階層的に特徴を捉える~

低レベルから高レベルへ、段階的に理解する流れ

ここで、具体例として「X線画像に写っている腫瘍が、がんかどうかを判別する」という医療タスクを考えてみましょう。ディープラーニングでは、入力画像のピクセル情報が各層を通過するたびに、低レベルな特徴から高レベルな特徴へと“階層的”に変換されていきます。

  1. 第 1 層(低レベルの特徴抽出)
    • 画像のピクセル情報に人工ニューロンを通して(「線形変換+非線形活性化関数」を適用)し、エッジ(輪郭線)や色の濃淡などの基本的な特徴を強調して抽出。
  2. 第 2 層(中レベルの特徴抽出)
    • 第 1 層で検出した線や色のパターンをさらに組み合わせ、形状や辺縁の特徴など、よりパーツレベルでの特徴を抽出。
  3. 第 3 層以降(高レベルの特徴抽出)
    • パーツ情報を統合し、腫瘍の有無やその特徴を認識。最終的には「がんかどうか」を判定し、確率などの形で結果を出力。

このように、各層を経るごとに 「線 → パーツ → 全体のオブジェクト」 という具合に段階的な抽象化が行われるのです。

◆発展◆ 数学的にはどう実現しているのか?

各層では以下のような計算をしています。

こうした計算を層ごとに繰り返し、前層が捉えた特徴を引き継ぎつつ、より抽象度の高い特徴を強調していくわけです。

深層化によるパラメーター効率(少ないパラメーターで豊かな表現)

もうひとつ興味深い点として、“浅い層にただ大量のニューロンを詰め込む”よりも、“深い層を重ねる”ほうが パラメーター(重み:ニューラルネットワークの中の人工シナプス同士の繋がりの強さ。ここに情報が保存される)の総数が少なくて済む場合が多い ことが挙げられます。

  • なぜパラメーターが少なくなるのか?
    ネットワークが人工ニューロンを組み合わせる(「線形変換 + 非線形変換」を繰り返し合成する)ことで、複雑な関数を効率的に再利用しつつ表現できるからです。もし 1 層だけで同程度の複雑さを表現しようとすると、指数的に多くのユニットを要する可能性があります。
  • たとえるなら…
    • 深いネットワーク:機能をモジュールごとに少しずつ積み上げる、再利用可能なプログラムのイメージ
    • 浅いネットワーク:すべてを一気に書き下そうとして、結果的にパラメーターが膨大になるイメージ

このように多層で段階的に特徴を組み合わせていく構造が、パラメーター効率の良い(かつ豊かな)表現能力を生み出すと考えられています。もちろん最終的な性能は ネットワーク構造設計学習データの量 などにも左右されますが、一般的に「深層」であることはディープラーニングの大きなメリットなのです。

「深い」からこそ高精度を実現:医療分野の事例を中心に

医療画像診断

深層学習の多層構造は、医療現場にも大きなインパクトを与えています。
先ほどの例のように MRI や CT 画像から病変を検出するタスク では、人間の医師が見落としがちな微妙な特徴でも、ディープラーニングの「多層ネットワーク」が段階的に特徴を抽出して 高精度に『異常あり』と判断できる 可能性があります。

深層化により微細な特徴をしっかり捉えられるため、従来よりも精度・スピードの両面で診断をサポートできると期待されています。

📘 左:浅い(単層)ネットワーク
X線画像から「肺がん」「結核」「良性腫瘍」などを個別に判断。でも、「それが悪性か良性か」は人間が考える必要がある。

📗 右:深い(深層)ネットワーク
中の処理が複雑になっていて、多くのデータであらかじめ学習させていれば、 「悪性か良性か」をAIが自動で判断できるようになる!

その他の医療応用例

  • 肺がんの早期発見:CT 画像の極めて小さな結節を自動検知
  • 糖尿病性網膜症の判定:眼底写真からのわずかな出血点や黄斑浮腫の兆候を抽出
  • 心電図解析:不整脈などの異常パターンを高速検出
  • ゲノム解析:膨大な遺伝子データから疾患リスクを推定

このように、複雑なデータに対して多段階で特徴を抽出し、高い精度の予測を可能にする深層学習の医療応用は今後ますます拡大すると考えられています。

どうやって学習するのか?誤差逆伝搬の仕組み(過去記事)

深層学習が自動で特徴を学習するために欠かせないのが、誤差逆伝搬(バックプロパゲーション) という仕組みで、過去記事でも解説しています。(【医療AI教室:Vol.5】「風が吹けば桶屋が儲かる」とAIの共通点!?AIの学習を可能にした秘密!

大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 順伝搬:入力 → 各層 → 出力 の順で予測値を得る
  2. 誤差(損失)計算:出力結果と正解ラベルとの差を損失関数で評価
  3. 逆伝搬:誤差を各層へさかのぼり、各重みがどの程度誤差に影響しているか(勾配)を計算
  4. 重み更新:勾配降下法などを用いて重みを最適化し、誤差を小さくする方向に調整

この反復プロセスによって、

  • 第 1 層の重みは「エッジ抽出」に適した値に、
  • 第 2 層の重みは「パーツ認識」に適した値に、
    …といった具合に自律的に調整され、最終的には 高精度の分類モデル が完成します。

まとめ

「深層学習の深層って何?」という問いについて、要点を整理すると以下のとおりです。

  1. 深層(ディープ)=層をたくさん重ねたネットワーク
    • 入力層・隠れ層・出力層が多層にわたって連結した構造のこと
  2. 層を重ねるほど高度な特徴やパターンを捉えられる
    • 低レベルな線や色 → パーツレベル → 高レベルな抽象概念へと、階層的に学習が可能
  3. 深層化により、少ないパラメーターでも豊かな表現ができる
    • 「線形変換+非線形変換」の合成を繰り返すことで、浅い構造より、複雑な現象を少ない関数・パラメーターで効率的に表現
  4. 医学などの分野で高精度な判断を実現
    • MRI/CT 画像診断、音声認識、自然言語処理、自動運転など多方面で応用されている

一見難しそうに感じる深層学習ですが、その本質は「一つのニューロンが行っているようなシンプルな処理(線形変換+活性化関数)を複数回重ねて表現力を高める」ことにあります。これは人間の脳が段階的に情報を理解する流れにも似ていると言えるでしょう。

今後、ディープラーニング技術は医療分野をはじめ、私たちの日常を大きく変える可能性を秘めています。次に「深層学習」という言葉を見かけたら、「多層ネットワークを使って深い理解をするAIなんだな」とイメージしてみてください。

それでは最後にご一緒に、『深イイ!!』(「心のレバー」を前に倒す)



ご利用規約(免責事項)

当サイト(以下「本サイト」といいます)をご利用になる前に、本ご利用規約(以下「本規約」といいます)をよくお読みください。本サイトを利用された時点で、利用者は本規約の全ての条項に同意したものとみなします。

第1条(目的と情報の性質)

  1. 本サイトは、医療分野におけるAI技術に関する一般的な情報提供および技術的な学習機会の提供を唯一の目的とします。
  2. 本サイトで提供されるすべてのコンテンツ(文章、図表、コード、データセットの紹介等を含みますが、これらに限定されません)は、一般的な学習参考用であり、いかなる場合も医学的な助言、診断、治療、またはこれらに準ずる行為(以下「医行為等」といいます)を提供するものではありません。
  3. 本サイトのコンテンツは、特定の製品、技術、または治療法の有効性、安全性を保証、推奨、または広告・販売促進するものではありません。紹介する技術には研究開発段階のものが含まれており、その臨床応用には、さらなる研究と国内外の規制当局による正式な承認が別途必要です。
  4. 本サイトは、情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。健康に関するご懸念やご相談は、必ず専門の医療機関にご相談ください。

第2条(法令等の遵守)
利用者は、本サイトの利用にあたり、医師法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)、個人情報の保護に関する法律、医療法、医療広告ガイドライン、その他関連する国内外の全ての法令、条例、規則、および各省庁・学会等が定める最新のガイドライン等を、自らの責任において遵守するものとします。これらの適用判断についても、利用者が自ら関係各所に確認するものとし、本サイトは一切の責任を負いません。

第3条(医療行為における責任)

  1. 本サイトで紹介するAI技術・手法は、あくまで研究段階の技術的解説であり、実際の臨床現場での診断・治療を代替、補助、または推奨するものでは一切ありません。
  2. 医行為等に関する最終的な判断、決定、およびそれに伴う一切の責任は、必ず法律上その資格を認められた医療専門家(医師、歯科医師等)が負うものとします。AIによる出力を、資格を有する専門家による独立した検証および判断を経ずに利用することを固く禁じます。
  3. 本サイトの情報に基づくいかなる行為によって利用者または第三者に損害が生じた場合も、本サイト運営者は一切の責任を負いません。実際の臨床判断に際しては、必ず担当の医療専門家にご相談ください。本サイトの利用によって、利用者と本サイト運営者の間に、医師と患者の関係、またはその他いかなる専門的な関係も成立するものではありません。

第4条(情報の正確性・完全性・有用性)

  1. 本サイトは、掲載する情報(数値、事例、ソースコード、ライブラリのバージョン等)の正確性、完全性、網羅性、有用性、特定目的への適合性、その他一切の事項について、何ら保証するものではありません。
  2. 掲載情報は執筆時点のものであり、予告なく変更または削除されることがあります。また、技術の進展、ライブラリの更新等により、情報は古くなる可能性があります。利用者は、必ず自身で公式ドキュメント等の最新情報を確認し、自らの責任で情報を利用するものとします。

第5条(AI生成コンテンツに関する注意事項)
本サイトのコンテンツには、AIによる提案を基に作成された部分が含まれる場合がありますが、公開にあたっては人間による監修・編集を経ています。利用者が生成AI等を用いる際は、ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)やバイアスのリスクが内在することを十分に理解し、その出力を鵜呑みにすることなく、必ず専門家による検証を行うものとします。

第6条(知的財産権)

  1. 本サイトを構成するすべてのコンテンツに関する著作権、商標権、その他一切の知的財産権は、本サイト運営者または正当な権利を有する第三者に帰属します。
  2. 本サイトのコンテンツを引用、転載、複製、改変、その他の二次利用を行う場合は、著作権法その他関連法規を遵守し、必ず出典を明記するとともに、権利者の許諾を得るなど、適切な手続きを自らの責任で行うものとします。

第7条(プライバシー・倫理)
本サイトで紹介または言及されるデータセット等を利用する場合、利用者は当該データセットに付随するライセンス条件および研究倫理指針を厳格に遵守し、個人情報の匿名化や同意取得の確認など、適用される法規制に基づき必要とされるすべての措置を、自らの責任において講じるものとします。

第8条(利用環境)
本サイトで紹介するソースコードやライブラリは、執筆時点で特定のバージョンおよび実行環境(OS、ハードウェア、依存パッケージ等)を前提としています。利用者の環境における動作を保証するものではなく、互換性の問題等に起因するいかなる不利益・損害についても、本サイト運営者は責任を負いません。

第9条(免責事項)

  1. 本サイト運営者は、利用者が本サイトを利用したこと、または利用できなかったことによって生じる一切の損害(直接損害、間接損害、付随的損害、特別損害、懲罰的損害、逸失利益、データの消失、プログラムの毀損等を含みますが、これらに限定されません)について、その原因の如何を問わず、一切の法的責任を負わないものとします。
  2. 本サイトの利用は、学習および研究目的に限定されるものとし、それ以外の目的での利用はご遠慮ください。
  3. 本サイトの利用に関連して、利用者と第三者との間で紛争が生じた場合、利用者は自らの費用と責任においてこれを解決するものとし、本サイト運営者に一切の迷惑または損害を与えないものとします。
  4. 本サイト運営者は、いつでも予告なく本サイトの運営を中断、中止、または内容を変更できるものとし、これによって利用者に生じたいかなる損害についても責任を負いません。

第10条(規約の変更)
本サイト運営者は、必要と判断した場合、利用者の承諾を得ることなく、いつでも本規約を変更することができます。変更後の規約は、本サイト上に掲載された時点で効力を生じるものとし、利用者は変更後の規約に拘束されるものとします。

第11条(準拠法および合意管轄)
本規約の解釈にあたっては、日本法を準拠法とします。本サイトの利用および本規約に関連して生じる一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。


For J³, may joy follow you.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

医師・医学博士・AI研究者・連続起業家
元厚生労働省幹部・ハーバード大学理学修士・ケンブリッジ大学MBA・コロンビア大学行政修士(経済)
岡山大学医学部卒業後、内科・地域医療に従事。厚生労働省で複数室長(医療情報・救急災害・国際展開等)を歴任し、内閣官房・内閣府・文部科学省でも医療政策に携わる。
退官後は、日本大手IT企業や英国VCで新規事業開発・投資を担当し、複数の医療スタートアップを創業。現在は医療AI・デジタル医療機器の開発に取り組むとともに、東京都港区で内科クリニックを開業。
複数大学で教授として教育・研究活動に従事し、医療関係者向け医療AIラボ「Medical AI Nexus」、医療メディア「The Health Choice | 健康の選択」を主宰。
ケンブリッジ大学Associate・社会医学系指導医・専門医・The Royal Society of Medicine Fellow

目次