医療AI開発において「万能なモデル」は存在しません。 「解釈性(なぜその答えか)」を重視するか、「予測精度(当たる確率)」を最優先するか。 目的とデータの性質に応じて、最適な道具を使い分ける視点を持ちましょう。
前回までは、RWD(リアルワールドデータ)に含まれるノイズや欠損といった「汚れ」をいかに綺麗にするか、というデータ前処理の技術について深掘りしてきました。データが整った今、私たちの手元には、そのデータから医学的な知見や予測を導き出すための「道具箱」が必要になります。
それが、機械学習アルゴリズムです。
日々の診療現場で、私たちは常に「選択」を迫られています。例えば、患者への負担が少ない「低侵襲だが感度がやや劣るスクリーニング検査」を選ぶか、それとも負担は大きいが「確定診断に近い高精度な検査」を選ぶか。実は、機械学習モデルの選択も、これと非常によく似たジレンマを抱えているのです。
それは、「中身が完全に理解でき、説明しやすい(ホワイトボックス)モデル」か、「中身は複雑で解釈は難しいが、予測精度が極めて高い(ブラックボックス)モデル」か、という選択です。この二つの価値は、しばしばトレードオフ(二律背反)の関係にあり、どちらを優先すべきかは長年議論されてきました(Rudin, 2019)。
今回は、この重要なトレードオフを正しく理解し、目の前の臨床課題にとって最適なアルゴリズムを選び取るための「羅針盤」を手に入れましょう。数式という名の設計図も、少しだけ覗いてみます。決して怖がる必要はありません。これらはすべて、データという混沌から真実を導き出し、より良い医療を実現するための、美しい道具なのですから。
1. 決定木(Decision Tree):AIの思考を透視する
まず最初に紹介するのは、私たち医療従事者にとって最も親しみやすく、直感的に理解しやすいモデル、決定木(Decision Tree)です。
なぜ「親しみやすい」のか? それは、このモデルの構造が、私たちが普段の診療で無意識に行っている「診断アルゴリズム」や、救急現場での「トリアージフローチャート」そのものだからです(Hastie et al., 2009)。
「Yes/No」で切り分けるシンプルさ
決定木は、データに対して次々と質問を投げかけ、その回答(Yes/No)によってデータを分類していきます。
例えば、胸痛患者のトリアージをイメージしてみましょう。
このように、「年齢は65歳以上か?」「収縮期血圧は140以上か?」といった閾値(しきいち)による質問を繰り返すことで、最終的な判断(クラス)へとデータを導きます。
メリットとデメリット:透明性と過学習
このシンプルさは強力な武器になりますが、同時に弱点も抱えています。
- 長所(Pros): ホワイトボックス性が極めて高い
最大のアドバンテージは「説明可能性(Interpretability)」です。なぜAIがその予測に至ったのか、分岐のプロセスを完全に追跡できます。これは、患者さんへのインフォームド・コンセントや、医師間のカンファレンスにおいて非常に重要です。また、データ間の「非線形」な関係(例:年齢が高いときだけ血圧の影響が大きくなる等)も自然に表現できます。 - 短所(Cons): 過学習(Overfitting)のリスク
決定木は、放っておくと訓練データに合わせてどこまでも細かく枝を伸ばしてしまいます。これは、過去問の答えを丸暗記して満点を取るけれど、少しひねった応用問題(未知のデータ)が出ると全く解けない学生のような状態です。汎用性を高めるためには、木の深さを制限するなどの調整が必要になります。
数式で見る「分割のルール」
では、AIはどうやって「ST上昇の有無」や「年齢65歳」といった「最適な質問」を自分で決めているのでしょうか?
ここで登場するのが不純度(Impurity)という概念です。AIの目標はシンプルです。「質問をしてグループを分けた結果、中身ができるだけ『純粋(同じラベルのデータばかり)』になるような分け方」を探すことです。
その指標として代表的な、ジニ不純度(Gini Impurity)の数式を少しだけ覗いてみましょう。
\[ I_G(p) = 1 – \sum_{i=1}^{J} p_i^2 \]
数式アレルギーの方も安心してください。中身は単純な引き算です。
- \( J \):分類したいクラスの数(例:病気あり/なし なら 2)
- \( p_i \):あるノード(分岐点)に含まれる、クラス \( i \) のデータの割合
具体的な数字を入れると、この式が何をしたいのかが見えてきます。
- 完全に整理された状態(純粋):
ある箱の中身がすべて「陽性」データだったとします(\( p_{pos} = 1 \))。
\[ 1 – 1^2 = 0 \] 答えは「0」。つまり、不純物なしの「純粋」な状態です。AIはこの「0」を目指します。 - 完全に混ざり合った状態(不純):
逆に、陽性と陰性が半々(0.5ずつ)で、全く区別がついていない状態だとどうでしょう。
\[ 1 – (0.5^2 + 0.5^2) = 1 – (0.25 + 0.25) = 0.5 \] 答えは「0.5」。不純度が高く、まだ整理が必要な状態です。
AIは、手持ちのすべての検査項目(特徴量)と、あらゆるカットオフ値(閾値)について、この計算を総当たりで行います。そして、「この質問をすれば、不純度が一番ガクンと下がる!」というベストな分割ルールを貪欲に見つけ出しているのです。
これが、決定木が「思考」するプロセスの正体です。
2. ランダムフォレスト(Random Forest):三人寄れば文殊の知恵
決定木は非常に強力で分かりやすいモデルですが、一つ大きな弱点があります。それは、訓練データに対してあまりにも正直になりすぎてしまうことです。
一本の木だけでは、特定のデータ(例えば、たまたまその病院に多かった特殊な症例)に過剰に適合してしまい、少しでも傾向の違う新しい患者さんが来ると、診断を間違えてしまうことがあります。いわゆる「木を見て森を見ず」の状態です。
そこで考え出されたのが、「一本の木が不安定なら、たくさんの木を植えて『森』にしてしまえばいいじゃないか」という発想、その名もランダムフォレスト(Random Forest)です(Breiman, 2001)。
バギング(Bagging)による安定化
ランダムフォレストは、「アンサンブル学習(Ensemble Learning)」と呼ばれる手法の代表格です。一人の天才に頼るのではなく、凡人でも良いからたくさんの意見を集めて、みんなで決めようという戦略です。
その仕組みは、以下の3つのステップで行われます。
- データのランダム抽出(ブートストラップサンプリング):
元の患者データから、くじ引きのようにランダムにデータを抜き出して、少しずつ中身の違う「仮想的なデータセット」を何百個も作ります。このとき、同じ患者さんが何度も選ばれたり、一度も選ばれなかったりすることを許容します(復元抽出)。 - 特徴量のランダム選択:
ここが重要なポイントです。それぞれの木を育てるとき、すべての検査項目(特徴量)を使うのではなく、「今回は血液検査だけ」「今回はバイタルサインだけ」というように、使う情報の種類もランダムに制限します。これにより、「多様な視点を持った木」がたくさん育ちます。 - 多数決で決定:
最後に、育てたすべての木に診断をさせ、その結果の多数決(分類の場合)や平均(回帰の場合)をとって最終的な答えとします。
医療現場での意義:専門医チームによるカンファレンス
これを医療現場に例えるなら、「多様な専門医によるキャンサーボード(集学的治療検討会)」のようなものです。
一人の医師だけの判断では、その医師の経験や専門分野(バイアス)によって、どうしても診断に偏りが出るリスクがあります。しかし、外科医、放射線科医、病理医、腫瘍内科医など、それぞれ異なるバックグラウンド(異なるデータと特徴量)を持つ100人の医師が集まって多数決をとればどうでしょうか?
誰か一人が見落としたとしても、他の誰かが気づくことで、突飛な誤診は減り、診断の精度と安定性は飛躍的に向上します。これが、「三人寄れば文殊の知恵」を体現するランダムフォレストの強みなのです。
3. GBDT (XGBoost / LightGBM):失敗から学ぶ職人芸
現在、Kaggleなどの世界的なデータ分析コンペティションや、実務の最前線で「テーブルデータ(表形式データ)においては最強」の呼び声高い手法。それが、勾配ブースティング決定木(GBDT: Gradient Boosting Decision Tree)です(Chen and Guestrin, 2016)。
先ほどのランダムフォレストが「みんなで投票して決める民主主義」だとするならば、GBDTは「自分の失敗を糧にして、少しずつ修正を重ねていく熟練の職人」のようなモデルです。
ブースティング(Boosting)の魔法:直列に学ぶ
ランダムフォレストとの最大の違いは、木を育てる「順番」と「関係性」にあります。
- ランダムフォレスト(バギング): 独立した木を「並列」に一斉に育てます。木と木はお互いに無関係です。
- GBDT(ブースティング): 木を「直列」に一本ずつ順番に育てます。前の木の結果を見て、次の木を作ります。
その学習プロセスは、まさに「失敗(残差)から学ぶ」ことの連続です。
- まず、1本目の木が予測を行います。当然、最初は粗削りなので、正解との間に「ズレ(誤差=残差)」が出ます。
- 2本目の木は、元のデータではなく、「1本目の木が間違えた部分(残差)」だけを予測・修正するように学習します。
- 3本目の木は、1本目と2本目を合わせてもまだ残っている「微細なズレ」をさらに修正します。
これを数十〜数千回繰り返すことで、誤差を極限までゼロに近づけていくのです。
直感的イメージ:ゴルフのアプローチショット
このプロセスは、数式で考えるよりも、ゴルフでボールをカップに入れる過程に例えると非常に分かりやすくなります。
【GBDTのイメージ:ゴルフのパッティング】
- 1本目の木(1打目): 「だいたいあっちだ!」と大きく打ちます。でも、カップの手前で止まってしまいました(ショート)。
- 2本目の木(2打目): 1打目のミスである「残り距離」だけを見て、追加で打ちます。おっと、今度は少し右に逸れました。
- 3本目の木(3打目): 2打目のミスである「右へのズレ」だけを修正するように、コンと打ちます。見事カップイン!
これを数式で表現すると、以下のようになります。最終的な予測 \( F(x) \) は、小さな決定木 \( f(x) \) の足し算です。
\[ F(x) = f_1(x) + f_2(x) + f_3(x) + \dots \]
このように、前のモデルの「失敗(残差)」を次のモデルがリレー形式でカバーしていくことで、単体のモデルでは到達できない驚異的な予測精度を叩き出すのです。
「最強の信頼性」を支える具体的な技術的優位性
医療AIにおいてGBDTが「最強」と信頼される理由は、単なる予測精度だけでなく、以下の実用上の効率性(コスト効率と速度)という、臨床実装に不可欠な要素が揃っている点にあります。
- 処理速度の圧倒的な速さ(計算資源の効率化):
これは、GBDTの実装であるLightGBMが採用する技術革新に負うところが大きいです。LightGBMはヒストグラムベースのアルゴリズムを採用しており、データを直接扱うのではなく、連続的な数値を一定の「区間(ビン)」に分割して計算を大幅に簡略化します(Ke et al., 2017)。これにより、ディープラーニングモデルのように高価なGPUを何時間も占有することなく、一般的なCPUのみで大規模なデータセットでも数分〜数十分という現実的な時間で学習を完了できます。このCPU利用効率の高さと、学習時間の短縮は、迅速なモデル更新が求められる臨床現場において決定的なメリットとなります。 - 少ないデータでの安定性(データ効率の高さ):
ディープラーニング(DL)は、学習すべきパラメータ(重み)が膨大なため、大規模なデータが必要不可欠です。一方、GBDTはブースティングによるバイアス(系統誤差)の積極的な修正という学習戦略をとります。これにより、モデルが過去の失敗から効率的に知識を抽出し、データ量が限られがちな希少疾患やRWDの解析において、比較的少ない医療データ(数千〜数万症例)でも安定した高い汎化性能(過学習しにくい性能)を発揮します。このデータ効率の高さは、臨床研究における大きなアドバンテージです。
「なぜ間違えたのか?」を執拗に分析し、次の一手で改善する。このストイックな姿勢と、臨床現場に求められる低コスト・高効率な予測能力こそが、GBDTが医療AI開発の現場で主役として君臨している所以なのです。参考文献
4. サポートベクターマシン(SVM):数学的「余裕」の美学
これまで紹介した決定木ベースのモデルとは、全く異なるアプローチをとるのがサポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)です(Cortes and Vapnik, 1995)。
もし決定木が「次々と質問を投げかけて答えを絞り込むクイズ王」だとしたら、SVMは「相容れない二つのグループの間に、完璧な境界線を引こうとする幾何学者」と言えるでしょう。
マージン最大化:最も「安全」な道を引く
SVMの目的は、陽性と陰性のデータを分ける「境界線(超平面)」を引くことです。しかし、ただ分けられれば良いわけではありません。SVMは、「両方のデータから最も距離(マージン)がある境界線」をただ一つだけ探し出します。
これを車の運転に例えてみましょう。
- あなたは、対向車線(陰性データ)と走行車線(陽性データ)を分けるセンターラインを引きたいと考えています。
- 対向車ギリギリに線を引くのは危険です。逆に、路肩ギリギリでも危険です。
- 一番安全なのは、「対向車からも、自車からも、できるだけ離れた道のど真ん中」に線を引くことですよね?
この「ど真ん中」を数学的に求めるのがSVMです。
\[ \text{maximize} \quad \dfrac{2}{| \mathbf{w} |} \]
少し数式が出てきましたが、直感的な意味だけ押さえておきましょう。
- \( \mathbf{w} \) は、境界線の向きを決めるベクトルです。
- この式は、「境界線から一番近いデータ点までの距離(マージン)を最大にしなさい」と命令しています。
この「余裕(マージン)」を可能な限り大きく持たせることで、訓練データにはない未知のデータが境界線ギリギリに来ても、誤判定せず正しく分類できる可能性が高まります。つまり、過学習しにくい(汎化性能が高い)モデルになるのです。
カーネルトリック:次元の壁を超える魔法
しかし、現実のデータはいつも直線で綺麗に分けられるとは限りません(線形分離不可能)。赤と青のデータが複雑に入り組んでいる場合はどうすればよいでしょうか?
ここでSVMは、「カーネル法(Kernel Method)」という数学の魔法を使います。これは、データを今の次元から「高次元空間」へ移動(写像)させるテクニックです。
有名な「机の上のボール」の例えでイメージしてみましょう。
【カーネル法のイメージ:次元を上げると解決する】
1. 2次元の世界(机の上)
机の上に、赤と青のボールがごちゃ混ぜに置かれています。中心に赤いボールが集まり、周りを青いボールが囲んでいるような状態です。これを「真っ直ぐな棒(直線)」一本で分けることはできません。
2. 3次元への移動(空中に投げる)
そこで、誰かが机の上のボールを一斉に空中に放り投げたとします。ただし、魔法を使って「赤いボールは高く飛び、青いボールは低く飛ぶ」ように投げます。
3. 解決(下敷きを差し込む)
ボールが空中に浮いている瞬間なら、高く飛んだ赤と、低く飛んだ青の間に、サッと「下敷き(平面)」を差し込むことができますね?
これで、赤と青は完全に分離されました。
SVMは、このように一見複雑に入り組んだデータでも、計算上の「次元」を上げることで、あたかも直線で切れるかのように問題を単純化して解いてしまうのです。
5. アルゴリズム選定の羅針盤
ここまで、決定木からSVMまで、強力な機械学習アルゴリズムという「武器」を次々と手に入れてきました。しかし、武器が増えれば増えるほど、「結局、今の自分の研究にはどれを使えばいいの?」と迷ってしまうものです。
ここでは、臨床研究やアプリケーション開発の現場で迷ったときに立ち返るべき、選択の指針(羅針盤)を示します。
📊 アルゴリズム比較の羅針盤
各モデルの特性を一目で比較できる表にまとめました。「解釈性(中身の分かりやすさ)」と「予測精度」は、多くの場合トレードオフの関係にあります。
| アルゴリズム | 解釈性 (Explainability) | 予測精度 (Accuracy) | 推奨シチュエーション |
|---|---|---|---|
| 決定木 | ◎ 極めて高い 人間が思考プロセスを完全に追える | △ 単体では低い 過学習しやすい | 臨床的なルール抽出、新しい臨床スコア作成の基礎検討 |
| ロジスティック回帰 | ○ 高い オッズ比で要因の影響度を説明可能 | ○ 中程度 線形データに強い | ベースラインモデル(最初の基準)、適切な研究デザイン下での因果推論(傾向スコア解析など) |
| ランダムフォレスト | △ 中程度 変数重要度(どの項目が効いたか)は出る | ◎ 安定して高い 調整が楽 | データにノイズが多い、パラメータ調整なしでとりあえず高い性能を出したい時 |
| GBDT (XGBoost等) | △ 低め SHAP値などで事後的に補完が必要 | ☆ 非常に高い テーブルデータ最強クラス | Kaggleコンペ、実用アプリケーションでの精度追求(「当たる」ことが最優先の場合) |
| SVM | △ 難解 高次元空間での境界線は直感的でない | ○ データ数少〜中 汎化性能が高い | データ数(症例数)は少ないが、特徴量(遺伝子数など)が極端に多い場合 |
アルゴリズム選定ミニフロー
迷ったときは、以下のフローチャートを参考にしてください。これはあくまで一般的な指針ですが、最初の一歩を踏み出す助けになるはずです。
【⚠️重要な注意点】
どのアルゴリズムを選ぶ場合でも、「自施設のデータだけでうまくいった(内部検証)」だけでは不十分です。必ず外部の病院のデータでの検証(外部検証)や、年齢・性別・施設間などのバイアス評価を行い、「このモデルは目の前の患者さんだけでなく、他の場所でも通用するのか(一般化可能性)」を確認することが、医療AIの実装においては不可欠です。
Pythonでの実装イメージ:驚くほど簡単!
「難しそう…」と身構える必要はありません。Pythonの素晴らしいところは、世界標準の機械学習ライブラリである scikit-learn を使えば、これらの全く異なるモデルを、ほぼ同じ書き方(共通のインターフェース)で切り替えられることです。
まるで、カセットテープを入れ替えるようにモデルを交換できます。
# 必要なライブラリ(モデルの部品)をインポート
from sklearn.tree import DecisionTreeClassifier # 決定木
from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier # ランダムフォレスト
from sklearn.svm import SVC # SVM
import xgboost as xgb # XGBoost
# -------------------------------------------------------
# 1. モデルを定義する(ここを変えるだけでモデルが切り替わります!)
# -------------------------------------------------------
# model = DecisionTreeClassifier() # 決定木を使いたい時
# model = SVC() # SVMを使いたい時
# 今回は「最強」のXGBoostを使ってみましょう
model = xgb.XGBClassifier()
# -------------------------------------------------------
# 2. 学習と予測のコマンドは全モデル共通です
# -------------------------------------------------------
# 【学習(Training)】:過去問と答えを渡して勉強させる
# X_train: 検査データ, y_train: 診断結果(正解)
model.fit(X_train, y_train)
# 【予測(Inference)】:新しい患者データの診断をさせる
# X_test: 未知の患者データ
prediction = model.predict(X_test)
# 結果を表示
print(f"AIの診断結果: {prediction}")
このように、model.fit() で学習し、model.predict() で予測する。この「黄金の2行」さえ覚えておけば、最新のアルゴリズムもすぐに試すことができるのです(Pedregosa et al., 2011)。
6. 臨床スコア作成への応用:ブラックボックスからエッセンスを抽出する
最後に、少し高度で実践的な視点を提供します。
ここまで、「精度の高いブラックボックス(GBDTなど)」と「分かりやすいホワイトボックス(決定木など)」は対立するものとして議論してきました。しかし、これらは決して水と油ではありません。両者を組み合わせることで、「AIの知能を持った、人間にも使える臨床スコア」を開発することができるのです。
AIと人間の「いいとこ取り」をする3ステップ
具体的には、以下のような手順でモデルを「蒸留(Distillation)」します。
- Step 1:AIによるスクリーニング(広範囲探索)
まず、GBDTなどの高精度モデルに、数百〜数千の項目を含む全データを学習させます。そして、SHAP(Shapley Additive exPlanations)などの技術を用いて、「どの項目が予測に効いているのか?」という重要因子を洗い出します(Lundberg and Lee, 2017)。人間には気づかない隠れたリスク因子が見つかることもあります。 - Step 2:人間向けモデルへの再学習(単純化)
AIが見つけた「本当に重要なトップ5〜10の因子」だけを厳選します。そして、この少数精鋭のデータを使って、今度はシンプルな決定木やロジスティック回帰で学習し直します。 - Step 3:現場で使える「スコア」への翻訳(実用化)
得られたモデルの係数や分岐ルールを、人間が暗算しやすい整数に丸めます。
(例:ロジスティック回帰の係数 0.8 → 「+1点」、係数 1.5 → 「+2点」)
【AI開発による臨床スコアのイメージ】
| 年齢 ≧ 75歳 | +2点 |
| 高血圧 (あり) | +1点 |
| 糖尿病 (あり) | +1点 |
| 合計点数 | リスク評価 |
※これは架空の例ですが、有名なCHADS2スコア(心房細動患者の脳梗塞リスク評価)なども、元々はこうした統計的なリスク因子の重み付けに基づいて作られています(Gage et al., 2001)。
こうすることで、「AIが発見した複雑な知見」を、「スマホもPCもいらない、紙とペンだけで計算できるシンプルなスコア」に落とし込むことができます。これなら、明日の回診からすぐに使えますし、ガイドラインにも掲載しやすいですよね。
「精度」と「分かりやすさ」。この両方を追求することこそが、医療AI開発者の腕の見せ所なのです。
次回は、視点をガラリと変えて、正解(教師データ)のない世界へ飛び込みます。データの海から「患者像」を自然に浮かび上がらせる「教師なし学習」について学びましょう。
参考文献
- Breiman, L. (2001). Random Forests. Machine Learning, 45(1), 5–32.
- Chen, T. and Guestrin, C. (2016). XGBoost: A Scalable Tree Boosting System. In Proceedings of the 22nd ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining, 785–794.
- Cortes, C. and Vapnik, V. (1995). Support-vector networks. Machine Learning, 20(3), 273–297.
- Gage, B.F., Waterman, A.D., Shannon, W., Boechler, M., Rich, M.W. and Radford, M.J. (2001). Validation of clinical classification schemes for predicting stroke: results from the National Registry of Atrial Fibrillation. JAMA, 285(22), 2864–2870.
- Hastie, T., Tibshirani, R. and Friedman, J. (2009). The Elements of Statistical Learning: Data Mining, Inference, and Prediction. 2nd ed. Springer.
- Hernán, M.A. and Robins, J.M. (2020). Causal Inference: What If. Chapman & Hall/CRC.
- Lundberg, S.M. and Lee, S.-I. (2017). A Unified Approach to Interpreting Model Predictions. In Advances in Neural Information Processing Systems, 30.
- Rudin, C. (2019). Stop explaining black box machine learning models for high stakes decisions and use interpretable models instead. Nature Machine Intelligence, 1(5), 206–215.
- Shwartz-Ziv, R. and Armon, A. (2022). Tabular data: Deep learning is not all you need. Information Fusion, 81, 84–90.
- Pedregosa, F., Varoquaux, G., Gramfort, A., Michel, V., Thirion, B., Grisel, O. et al. (2011). Scikit-learn: Machine Learning in Python. Journal of Machine Learning Research, 12, 2825–2830.
- Ke, G., Meng, Q., Wang, T., Chen, W., Ma, W., Ye, Q. and Liu, T.Y. (2017). LightGBM: A Highly Efficient Gradient Boosting Decision Tree. In Advances in Neural Information Processing Systems, 30.
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