[Clinical AI Coding 100 : C30.5] uv・conda・Docker──発展ツールで本番環境まで見据える

学習のポイント

venvの限界(GPU共存の壁と本番再現性の壁)を理解し、それを解決する発展的ツールconda, uv, Dockerの役割と使い分けを学びます。

🧱 venvの「2つの壁」
🧑‍🔬 GPU共存の壁 (研究)

複数のCUDA環境(例: 11.7と12.1)を同じPCで安定して切り替えるのが困難。非Pythonライブラリの依存関係も複雑化します。

💻 再現性の壁 (本番)

OSやシステムライブラリ(libjpeg等)の違いを吸収できず、「自分のPCで動くのにサーバで動かない」問題が発生します。

🛠️ 解決策① (研究・開発)
🐍 conda (研究の安定化)

CUDAやMKLなど「非Pythonライブラリ」も環境内に分離・管理。GPU環境(例: CUDA 11.7 / 12.1)の安定した切り替えを実現します。

⚡️ uv (開発の高速化)

venv + pip の正統進化・高速版。軽量で高速ですが、condaと異なりCUDA等の非Pythonライブラリは管理できません。

解決策② (本番運用)
🐳 Docker (本番の標準)

OS・ライブラリ・コードを丸ごと「コンテナ」に隔離(滅菌パック化)。OSレベルの差異を吸収し、完全な再現性を担保します。医療AI (SaMD) の品質保証(QMS)で必須の技術です。

🧱 venvの限界 (Pythonレベルの分離) Host OS venv A (CUDA 11.7) venv B (CUDA 12.1) System Lib (libjpeg) NVIDIA Driver (共通) 💥 システムライブラリとDriverが共通で衝突 🐍 解決策①: conda (研究の安定化) Host OS conda env A (CUDA 11.7 内包) conda env B (CUDA 12.1 内包) NVIDIA Driver (共通) CUDAランタイムを環境内に分離 🐳 解決策②: Docker (本番の再現性) Host OS (Docker Engine) Container A (OSごと隔離) Mini-OS + libjpeg 1.4 + venv A (NVIDIA Driver のみホストと連携) Container B (OSごと隔離) Mini-OS + libjpeg 1.5 + venv B (NVIDIA Driver のみホストと連携) OS・システムライブラリごと分離し、完全な再現性を担保

venvの先へ:医療AIの「GPU」と「本番運用」を支える環境技術

前回C30.4では、Python開発における「清潔野(無菌室)」として、venvによる仮想環境の重要性を学びました。

venvを有効化し、nvidia-smiでCUDAバージョンを確認し、PyTorch公式サイトでpipコマンドを生成してインストールする──。この一連の手順 (Python Software Foundation 2024; PyTorch 2024) は、単一のプロジェクトをクリーンな環境で管理する上で、非常に優れた第一歩です。

しかし、医療AIの研究開発が「試作」から「本番」へと進むと、私たちはvenv + pipというアプローチだけでは解決が困難な、2つの大きな壁に直面します。

1. GPU依存と「共存」の壁(研究者の悩み)

近年の PyTorch(pip 版)は、CUDA ランタイムを wheel に同梱しているため、GPU 版 PyTorch を利用する際に CUDA Toolkit を別途インストールする必要は基本的にありません。ただし、GPU 実行のためには 対応するバージョンの NVIDIA GPU Driver がシステム側に必須です (PyTorch 2024)。

一方、conda 版の PyTorch は CUDA ランタイム(例:pytorch-cuda=12.1)を conda 環境内に分離してインストールする方式を採っており、プロジェクトごとに異なる CUDA ランタイムを切り替えやすいのが特徴です (Anaconda 2024)。

もし、古い論文(CUDA 11.7必須)の再現と、最新LLM(CUDA 12.1必須)の研究を同じPCで並行しようとすると、どうなるでしょうか。

pip + venv でも、理論上はそれぞれ別の仮想環境に cu117 版と cu121 版のPyTorchをインストールして共存させることはできます。しかし、どちらの環境も共通の NVIDIA GPU Driver に依存しており (PyTorch 2024)、さらに他の非Pythonライブラリ(OpenCVなど)やツールチェーンとの組み合わせまで含めて整合を取ろうとすると、環境管理は一気に複雑になります。

研究者は、何よりも「GPU環境を迅速かつ安定的に構築し、依存関係の衝突なく実験に集中したい」と考えますが、純粋な venv + pip だけでこの要望を満たそうとすると、現実的にはかなりシビアな運用が必要になる、というのが実情です。

2. 本番環境と「再現性」の壁(エンジニアの悩み)

venvはPython環境を分離しますが、OS(Ubuntu, CentOS, Windows)や、画像処理に必要なlibjpegのようなシステムライブラリの違いまでは吸収できません。エンジニアは、「自分のPCでは動いたのに、病院のサーバでは動かない」という事態を何としても避け、軽量・高速・セキュアな本番環境を構築したいと考えます。

本講義では、この「研究者の論理」と「エンジニアの論理」という、相反しがちな2つの要求に同時に応えるための発展的なツール群──conda, uv, そして Docker──の役割と使い分けを学びます。

venvの先へ:医療AIの「GPU」と「本番運用」を 支える環境技術 🌿 C30.4: venv (清潔野) 1. GPU依存と「共存」の壁 (研究者の悩み 🧑‍🔬) 古い論文 (11.7) 最新LLM (12.1) NVIDIA GPU Driver (共通) 依存関係の管理が複雑化 💥 2. 本番環境と「再現性」の壁 (エンジニアの悩み 💻) 開発PC (動く ✅) 本番サーバ (動かない ❌) ➡️ OS・システムライブラリの差異 (例: libjpeg) conda 🐍 Docker 🐳 uv ⚡️ ↓ 解決策 (発展ツール群) ↓

目次

conda:GPU環境を司る「科学技術計算」のための環境

venvがPython標準の軽量な環境分離ツールだとすれば、condaはより重装備な、「科学技術計算」のための統合環境管理ツールと言えます。

依存関係の「管理思想」の違い (pip vs conda) 🌿 pip (in venv) CUDAは「同梱 (Bundled)」 torch-2.x.x+cu121.whl (CUDAランタイムを内包) NumPy (MKL?) SciPy (Fortran?) 💥 pipはPython以外の依存関係 (MKL, Fortran等)の 衝突を「解決できない」 🐍 conda CUDAは「明示的な依存関係」 pytorch pytorch-cuda=12.1 NumPy MKL (libmkl) SciPy Fortran (libgfortran) Condaソルバー (⚙️) が 非Pythonを含む全ての依存関係を 「明示的に解決」 ✅ 両者とも、共通の「NVIDIA GPU Driver」に依存 ✅ 安定した環境切替 ⚠️ 重い・pipと競合

condaとは何か?

Condaは、パッケージ管理システムであると同時に、環境管理システムでもあります (Anaconda 2024)。最大の特徴は、venv + pipが苦手とする、Python以外のライブラリ(C/C++製ライブラリ、Fortran、そしてNVIDIA CUDA/cuDNNなど)まで含めて依存関係を管理できる点にあります。

なぜGPUと相性が良いのか?(venvとの決定的な違い)

ここで、先ほど触れた「GPU依存の壁」について、近年の状況を踏まえて正確に整理しましょう。

ご指摘の通り、近年のPyTorch(pip版)は非常に優秀で、GPU実行に必要な「CUDAランタイム」ライブラリを、PyTorchのバイナリ(wheel)自体に同梱して配布しています (PyTorch 2024)。そのため、システム側にNVIDIAのGPU ドライバ さえ正しく入っていれば、venv内でpip install torch(CUDA指定版)を実行するだけで、CUDA Toolkitを別途インストールせずともGPUを利用できるのが一般的です。

では、pipでもできるのに、なぜ「研究者にはcondaが圧勝」なのでしょうか?

それは、依存関係の「管理方法」の思想が根本的に異なるからです。

  • pip (in venv): piptorch-2.x.x+cu121-....whlのような「巨大な一つのファイル」をインストールします。CUDAランタイムは、そのtorchパッケージの内部にバンドル(同梱)されています。pip自身は、それがCUDAに依存しているとは(明示的には)認識していません。
  • conda: condaは、依存関係を明示的に管理します。condaでPyTorchをインストールすると、condaは「pytorch(Python部)と、それが依存するpytorch-cuda=12.1(非Python部)の、2つの別々のパッケージが必要だ」と認識し、両方を環境内にインストールします。
# condaは、PyTorchと、それに適合するCUDAライブラリ群を「別パッケージ」として認識・管理する
conda install pytorch torchvision torchaudio pytorch-cuda=12.1 -c pytorch -c nvidia

この「Python以外の依存関係を明示的に解決できる」能力こそが、condaの核心的な強みです。

医療AIの研究では、PyTorch(CUDA依存)だけでなく、NumPy(MKL/OpenBLAS依存)、SciPy(Fortran依存)、OpenCV(C++依存)など、複雑な非Pythonライブラリに依存する多数のパッケージを同時に利用します。pipではこれらの非Python間の衝突は解決できませんが、condaのソルバーはこれらすべてを考慮して、安定動作する組み合わせを見つけ出してくれます。

これにより、システム(OS)側を直接いじることなく、

  • conda activate project_A(CUDA 11.7 系ランタイムを含む環境)
  • conda activate project_B(CUDA 12.1 系ランタイムを含む環境)

といった形で、プロジェクトごとに異なる複雑な(CUDAを含む)実行環境を、非常に安定して切り替えることが可能になります。ただし、GPU ドライバ 自体はシステム共通であるため、そこへの依存は残る点には注意が必要です (NVIDIA 2024)。

この手軽さと、複雑な科学技術計算スタック全体の依存関係を安定して解決できる能力こそ、医療AI研究者にとってcondaが依然として非常に強力な選択肢である理由です。

condaの注意点(エンジニアが懸念する点)

condaは研究フェーズでは強力ですが、本番運用では以下の点が嫌われます。

  1. 環境が重い: 1つの環境が数GBに達することも珍しくなく、軽量な本番サーバーには不向きです。
  2. pipとの混在: conda環境内でpipを多用すると、依存関係リゾルバが競合し、環境が不安定になるリスクがあります (Gergely 2020)。
  3. 本番の非互換性: condaで開発した環境を、そのまま本番のDockerコンテナに持ち込むのは非効率で、不安定になりがちです。

uv:次世代の高速パッケージツール(エンジニアの選択肢)

uvは、近年登場した非常に高速なPythonパッケージインストーラ兼リゾルバです (Astral 2024)。Rust製で、従来のpipを置き換えることを目指して設計されており、依存関係の解決とインストールを高速に行えるのが特徴です。

uvの位置づけ

uvcondaのようにPython以外のライブラリ(CUDA)を管理することはできません。uvの立ち位置は、あくまでvenv + pipの正統進化・高速版です。

venvの軽量性・標準性を保ちつつ、condaの弱点であった「動作の遅さ」を解決するため、本番用アプリ開発を行うエンジニアにとって、venvに代わる強力な選択肢となっています。

  • uv venv: python -m venv .venv より高速に仮想環境を作成。
  • uv pip install: pip install より高速にパッケージをインストール(強力なキャッシュ機構)。
uv:次世代の高速パッケージツール `venv + pip` の高速な進化と `conda` との比較 正統進化 🚀 uv (高速な進化) Rust製 高速インストーラ/リゾルバ `venv + pip` の正統進化・高速版 ✅ 高速な仮想環境作成 (`uv venv`) ✅ 高速なインストール (`uv pip install`) ✅ 強力なキャッシュ機構 ❌ CUDA (非Python)管理は不可 🐍 venv + pip (標準) Python環境の分離 (venv) パッケージ管理 (pip) 📦 conda (別のアプローチ) Python + 非Python ライブラリ管理 ✅ CUDA / cuDNNを環境内に管理 ✅ 複数GPU環境の共存が可能 ❌ 依存関係の解決が遅い

Docker:本番運用の「絶対標準」

医療AI開発の最終目的は、開発したモデルを実際の臨床現場のサーバーやクラウドで「動かす」ことです。この「本番運用」フェーズにおいて、現在、技術的な絶対標準となっているのがDockerによる「コンテナ化」です。

Docker:本番運用の「絶対標準」 1. venv / conda (Pythonレベル) Host OS システムライブラリ (例: libjpeg 1.4) venv A (needs 1.4) ✅ venv B (needs 1.5) ❌ システムレベルで衝突 2. Docker (OSレベル) Host OS Container A Mini-OS + App A + libjpeg 1.4 Container B Mini-OS + App B + libjpeg 1.5 OSごと分離・共存 Dockerの主要概念 1. Dockerfile (設計書) FROM python:3.11-slim RUN apt-get install libjpeg COPY ./app /app RUN pip install -r req.txt CMD [“python”, “main.py”] docker build 2. Image (パッケージ) 📦 静的テンプレート (OS+Libs+Code) 読み取り専用 docker run 3. Container 🚀 実行プロセス 隔離された環境 🔬 医療AI (SaMD) での意義: 再現性の担保 (QMS) 「開発環境 = 検証環境 = 本番環境」の技術的証明 💻 Dev PC 🧪 Test Server 🏥 Production

Dockerとは何か?

Dockerは、アプリケーションをその実行に必要な環境ごと(OSの基本部分、ライブラリ、コード)丸ごとパッケージ化し、隔離された実行環境(=コンテナ)で動かすための技術基盤です (Docker Inc. 2024)。

ここに、venvcondaとの決定的な違いがあります。私たちがこれまで学んできたvenvcondaは、あくまで既存のOS(あなたのPC)の中で動作し、「Pythonレベル」の依存関係(どのバージョンのPyTorchを使うかなど)を管理するツールでした。

しかし、実際のアプリケーションはPythonライブラリだけで動いているわけではありません。例えば、医用画像(DICOMやJPEG 2000)を処理するコードは、OSにインストールされた特定のシステムライブラリ(例: libjpegopenjpeg)に依存しているかもしれません。venvcondaは、これらの「Python以外の部品」までを管理するのは苦手です。

Dockerは、この問題を「OSレベル」で解決します。個々のライブラリを管理する代わりに、アプリケーションが動作するために必要なOS(通常は軽量なLinux)そのもの、システムライブラリ、Python本体、そしてPythonライブラリとコードのすべてを、ひとまとめにして「Dockerイメージ」という一つのパッケージに固めてしまいます。

なぜ本番環境で「必須」なのか?

この「Dockerイメージ」の強力な点は、その“ポータビリティ(可搬性)”にあります。一度作成すれば、そのイメージはあなたのPC、共同研究者のPC、病院のオンプレミスサーバー、あるいはAWSやGCPのようなクラウドまで、Dockerが動く環境なら文字通り「どこでも」持っていくことができます。

そして、どこで実行しても、イメージから起動される「コンテナ」は、開発時と寸分違わない、OSレベルで隔離された環境を高いレベルで再現します。

これがなぜ重要かというと、エンジニアが長年悩まされてきた「私のPCでは動いたのに、本番サーバーでは動かない(It works on my machine)」問題を、根本的に解決に近づけるからです (Khattak 2023)。

この問題の多くは、例えば「開発PCのシステムライブラリ(libjpeg)がバージョン1.5だったが、本番サーバーは1.4だった」といった、venvcondaでは管理しきれないOSレベルの違いによって引き起こされます。Dockerイメージは、そのアプリケーションが必要とする「libjpeg 1.5」自体をOSごと内包しているため、サーバー側のバージョンを気にする必要がなくなるわけです。この「OSごと持ち運べる」という特性こそが、Dockerが本番運用で絶大な信頼を得ている最大の理由です。

もちろん、万能薬ではありません。コンテナはホストOSの「カーネル」という心臓部を共有する技術ですし、特にGPUを使う場合、ホスト側にインストールされた「NVIDIAドライバ」との互換性が必要になります。とはいえ、そうした低レイヤーな問題を除けば、アプリケーションレベルでの環境差異はほぼゼロに近づけることができます。

この「再現性」の担保は、医療AIの分野では特に重要です。開発したモデルが「医療機器ソフトウェア(SaMD)」として規制当局(FDAや厚生労働省など)の承認を得る場合を考えてみてください。承認審査では、「開発時に行った検証(バリデーション)と、病院で実際に動くものが、寸分違わず同一である」ことを証明しなくてはなりません (FDA 2017; IMDRF 2017)。

Dockerコンテナは、この「開発環境=検証環境=本番環境」という等式を、技術的に(品質マネジメントシステム, QMSの一部として)証明するための、現在最も強力な手段の一つです 。そのため、Dockerによるコンテナ化は、現代の医療MLOps(機械学習基盤)において、もはや「広く採用されている」というレベルを超え、「デファクトスタンダード(事実上の標準)」と呼んで差し支えないアプローチになっています (Stirbu 2023)。

Dockerの主要概念:3つのキーワード

Dockerを使いこなすために、まずはこの3つのキーワードの関係性をしっかり理解しましょう。これが分かれば、Dockerの仕組みは掴めたも同然です。

1. Dockerfile (設計書)

これは、私たちが作成する「コンテナの設計書」あるいは「実行可能なレシピ」です。Dockerfileという名前のシンプルなテキストファイルに、「どういう環境を作りたいか」を上から順に、命令として記述していきます。

例えば、以下のような内容を記述します。

  • ベースOSの指定: 「軽量なUbuntu 22.04を土台にします」(例: FROM ubuntu:22.04
  • システムライブラリの導入: 「画像処理に必要なlibjpegをOSにインストールします」(例: RUN apt-get install -y libjpeg-dev
  • Python環境の構築: 「Python 3.11を使えるようにします」(FROM python:3.11-slim のように、ベースイメージで兼ねることも多いです)
  • コードと依存関係のコピー: 「ローカルPCからapp/フォルダをコピーし、venv/uvで管理していたrequirements.txtを使ってライブラリをインストールします」(例: COPY ./app /app, RUN pip install -r requirements.txt
  • 実行コマンドの指定: 「このコンテナが起動したら、python main.pyというコマンドを実行します」(例: CMD ["python", "main.py"]

このように、OSのセットアップからアプリの実行まで、すべての手順をコード(テキスト)として明文化したものがDockerfileです。

📄 Dockerfile (設計書 / 実行可能なレシピ) 上から順に実行される「命令」の集まり 1. ベースOS + Python FROM python:3.11-slim 2. システムライブラリ導入 RUN apt-get install -y libjpeg-dev 3. コードのコピー COPY ./app /app 4. 依存関係のインストール RUN pip install -r requirements.txt 5. 実行コマンドの指定 CMD [“python”, “main.py”] 🐳 コンテナ環境の完成

2. Docker Image (イメージ)

Dockerfile(設計書)を専用のコマンド(docker build)で実行すると、その指示通りに環境が構築され、最終的に出来上がったパッケージが「Dockerイメージ」です。

これを理解するために、建築の「ブループリント(設計図)」や製造業の「金型(かながた)」を想像してみてください。これは、OS、ライブラリ、コードなど、アプリケーションの実行に必要なものすべてが詰め込まれた、「静的なスナップショット」であり、「凍結されたテンプレート」です。

重要なのは、イメージ自体は読み取り専用(Read-Only)であるという点です。一度「ビルド」して金型を作ってしまったら、その金型自体を後から修正することはできません。もし修正が必要なら、Dockerfile(設計書)を修正し、docker buildを再実行して、新しいバージョン(v2)の金型を作る必要があります。

この「不変性(Immutability)」こそが、Dockerの再現性を担保する鍵です。なぜなら、この「金型(イメージ)」さえあれば、どの工場(PC、サーバー)に持っていっても、全く同じ製品(=実行環境)を何度でも作り出せるからです。

2. Docker Image (イメージ) 📦 アナログ:製造業の「金型」 / 建築の「ブループリント」 📸 静的スナップショット 🧊 凍結されたテンプレート 🔒 読み取り専用 (不変性) OS、ライブラリ、コードなど、実行に必要なものすべてが詰め込まれたパッケージ 1. 作成 (Build) 📝 Dockerfile (設計書) docker build 📦 Image (金型 v1) 2. 修正 (Rebuild) 📝✏️ Dockerfile (設計書) を修正 docker build (再実行) 📦 Image (金型 v2) 3. 利益 (Reproducibility) 🔑 不変性 (Immutability) が再現性を担保 📦 💻 ☁️ どの工場 (PC, サーバ) でも 全く同じ製品 (環境) を作れる

3. Container (コンテナ)

Dockerイメージ(静的なパッケージ)を、実際に「実行」した状態が「コンテナ」です。

先ほどの例えを続けましょう。

  • Dockerfile = 建築家が書いた「設計指示書」(テキスト)
  • Docker Image = それを元に作成された「ブループリント(青写真)」(静的なテンプレート)
  • Container = そのブループリントを元に、実際に建設された「建物(ビル)」(実行中のプロセス)

「イメージ」は「ブループリント」なので、それ自体は動いたり、住んだりできません。私たちが実際に使うのは、docker runというコマンドを使ってブループリントから建設した「コンテナ」という「建物」の方です。

コンテナが起動すると、Dockerfileで指定された最後の命令(CMD ["python", "main.py"]など、「ビルの電気をつける」といった指示)が実行され、アプリケーションが動き始めます。

このコンテナ(建物)は、ホストOS(土地)や他のコンテナ(隣の建物)から、壁(カーネルの名前空間)によって完全に隔離されています。そのため、お互いに干渉することなく、安全に動作できます。

そして、Dockerのもう一つの強力な点は、その「拡張性(Scalability)」です。一つの「ブループリント(イメージ)」があれば、全く同じ「建物(コンテナ)」を何個でも(例えば、病院からのアクセスが急増したときにサーバーを100台に増やすように)一瞬で建設・起動できるのです。

🏢 3. Container (コンテナ) 設計図から建設された「実行中の建物」 Docker Image (ブループリント / 静的テンプレート) 🖼️ docker run Container A ⚙️ main.py 実行中 Container B ⚙️ main.py 実行中 Container C ⚙️ main.py 実行中 拡張性 (Scalability) 1つのイメージから、同じコンテナを何個でも起動できる

まとめ:判断力を磨くためのツール比較

私たちは、医療AI開発のフェーズと、自分が今「研究者」と「エンジニア」のどちらの帽子を被っているかに応じて、これらのツールを戦略的に使い分ける「判断力」を身につける必要があります。

これまでの内容を、以下の表に整理します。

観点venv (+ uv)conda / MinicondaDocker
主な目的Python環境の隔離 (軽量)Python + 非Python (CUDA) の管理OSごと隔離 (完全な再現性)
得意な場面開発 (Web API, 本番コード)研究・開発 (GPU/深層学習)本番運用, MLOps, CI/CD
GPU (CUDA) 管理苦手 (手動/システム依存)得意 (環境内に自動解決)得意 (専用イメージ利用)
本番再現性△ (OS依存)△ (環境の複雑化)◎ (OSごと固める)

補足:Poetry と Pixi

これらのツールと並列して、PoetryPixiといった名前も耳にするかもしれません。これらはvenvcondaを直接操作するのではなく、pyproject.tomlという設定ファイルに基づき、依存関係やプロジェクト設定をより高度に管理する「プロジェクト管理ツール」です。

  • Poetry: venvベースのプロジェクト管理ツール (Poetry 2024)。
  • Pixi: conda(の高速版)ベースのプロジェクト管理ツール (Pixi 2024)。

開発の王道ルート(2026年版):両方使うのが最適解

実務では組織やプロジェクトによってさまざまな運用がありますが、医療AI開発における一つの典型的な使い分けパターンとして、次のような三段階ルートを紹介します。

開発の王道ルート:ツールの使い分け Phase 1: 研究 🔬 「研究者」の帽子 主なツール conda + Jupyter 主な目的 迅速なGPU試作 依存関係の安定解決 Phase 2: 開発 💻 「エンジニア」の帽子 主なツール VS Code + conda ➡️ venv/uv (Docker化へ) API / スクリプトとして清書 Phase 3: 運用 🚀 「DevOps」の帽子 主なツール Docker FROM python:3.11-slim RUN pip install -r req.txt コンテナ化し、確実に配備
  1. Phase 1: 研究(「研究者」の帽子): conda + Jupyter Notebook
    • 目的: GPU環境を迅速に構築し、CUDAバージョンを気にせず、依存関係の衝突を避けながらモデルを試作・検証する。
    • ツール: conda
  2. Phase 2: 開発(「エンジニア」の帽子): VS Code + (conda または venv/uv)
    • 目的: 試作したロジックを、再現可能なスクリプト(.py)やAPI(FastAPIなど)として清書する。
    • ツール: この段階では、Phase 1のconda環境をそのまま使い続ける(VS Codeでインタープリタとして選択する)ことも一般的です。一方で、Phase 3のDocker化を見据え、この段階で意図的にvenv / uvと軽量なrequirements.txt(またはpyproject.toml)に移行するエンジニアリング的なアプローチも強力です。
  3. Phase 3: 運用(「DevOps」の帽子): Docker
    • 目的: アプリケーションをコンテナ化し、どのサーバでも確実に動作するように配備する。
    • ツール: Docker。Dockerfile内では、Phase 2で準備したvenv/uvベースのrequirements.txtを使うのが最も一般的です。(conda環境を直接Docker化することも技術的には可能ですが、イメージが巨大になる傾向があります)

C30.5では、venvだけでは対応できない医療AI特有の課題(特にGPUの並行利用とOSレベルの再現性)と、それを解決するcondaDockerという、より発展的なツール群の全体像を学びました。

次回C30.6では、これらの環境(ツール)の中で実際に動作する「コード」そのもの、すなわち医療AI開発に不可欠なPython文法を速習します。


参考文献


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この記事を書いた人

医師・医学博士・AI研究者・連続起業家
元厚生労働省幹部・ハーバード大学理学修士・ケンブリッジ大学MBA・コロンビア大学行政修士(経済)
岡山大学医学部卒業後、内科・地域医療に従事。厚生労働省で複数室長(医療情報・救急災害・国際展開等)を歴任し、内閣官房・内閣府・文部科学省でも医療政策に携わる。
退官後は、日本大手IT企業や英国VCで新規事業開発・投資を担当し、複数の医療スタートアップを創業。現在は医療AI・デジタル医療機器の開発に取り組むとともに、東京都港区で内科クリニックを開業。
複数大学で教授として教育・研究活動に従事し、医療関係者向け医療AIラボ「Medical AI Nexus」、医療メディア「The Health Choice | 健康の選択」を主宰。
ケンブリッジ大学Associate・社会医学系指導医・専門医・The Royal Society of Medicine Fellow

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