【医療AI教室:Vol.1】医療に関わる人のためのAI教室、はじめます!Vol. 1

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医療に関わる人のためのAI教室へようこそ!

「AI」と聞くと、「自分には関係ない」「なんだか難しそう」と感じる方も多いかもしれません。しかし実際、医療・医学の領域では何十年も前からAIの技術が日々の診療や研究に活用されてきました。今や私たちのすぐそばにあるAIは、診断支援や画像解析、治療の質向上など、さまざまな形で医療従事者のパートナーとなりつつあります。

このブログでは、そんなAIについて「そもそもAIって何なの?」「医療の現場でどのように役立つの?」という基本的な疑問に応えながら、最新のトレンドや実践的な活用例までを医療従事者向けにわかりやすくお届けしたいと思います。

簡単な自己紹介

私は内科医として診療に携わりながら、大学などで医療AIの研究を行い、さらにスタートアップでAIを活用したデジタル医療機器の開発にも取り組んでいます。

高崎 洋介 (医師・医学博士・MBA

Prof. TAKASAKI Yohsuke, MD, PhD, ScM, MPA, MBA(Cantab) (Mr.)

岡山大学医学部卒業後、内科に従事。同大学院で医学博士、ハーバード大学で理学修士、コロンビア大学で行政修士、ケンブリッジ大学でMBAを取得。
厚生労働省入省、医療国際展開推進室長、救急・周産期医療等対策室長、災害医療対策室長、医療情報技術推進室長等を歴任し、医療DX・AI、医療機器研究開発、EMB推進、医療保険制度等を担当。文部科学省出向中はライフサイエンスを、内閣府では食の安全を担当。WHOインターン、JICA日タイ国際保健共同プロジェクトのチーフも経験。
退官後、日本大手IT企業で保健医療分野の新規事業開発や投資事業戦略、英国VCも経験。並行して、複数社起業し、医療AI・DX、デジタル医療機器を開発。東京都港区に内科クリニックも開業。
現在、岡山大学研究・イノベーション共創機構 教授(特任)、ケンブリッジ大学Associate、広島大学医学部客員准教授として、学術・教育・研究にも携わっている。社会医学系指導医・専門医。

(※詳しい自己紹介や私とAIの関わりについては、このページの最後に記載していますので、興味のある方はぜひご覧ください)

日々、業務でAIに触れているからこそ感じるのは、AIの進歩のスピードが本当に驚くほど速いということ。毎週のように世界のどこかで革新的な研究結果が発表され、新しいプロダクトがローンチされています。情報収集だけでも膨大な時間と労力がかかりますし、AIの基礎を理解しないまま追いかけても、全体像を把握するのはとても難しくなっています。

むしろ今、AIの基礎をきちんと理解しておかないと、情報量が爆発的に増え続けるなかで「結局AIとは何だったのか?」がわからなくなってしまう危険性すらあると感じています。言い換えれば、今がAIを基礎から学べる“最後のチャンス”かもしれません

医療分野のAI解説はまだまだ少ない

AIに関する本や解説記事は数多く出ていますが、医療従事者向けの情報はまだまだ限られているのが現状です。さらに、扱われている情報も高度化・専門化しており、「これからAIを学習したい」という人には、もはやどこから手をつければいいのか分からないほど複雑になっています。

研究者としてPython(AIの実装によく使われる人気のプログラミング言語)を学ぼうとしたら、最初の環境構築だけでも挫折しそうになる……そんな声をよく聞きます。技術的なハードルを感じる方も多いでしょう。

このブログの目的

そこでこの「医療AI教室」では、

  • これからAIを勉強したいという方のオリエンテーション
  • すでにAIを使っている方との情報交換やディスカッションの場
  • (※ 医療現場でAIの利活用、医療生成系AI、医療AIイノベーション、医療AIの未来予想などに特化した内容は別のブログを考えています。)

として、医療関係者の目線から「今さら聞けないAIの基礎」をできるだけわかりやすく解説するところからスタートし、最新のAIの動向や専門的な話題まで幅広く取り上げたいと考えています。私自身が情報を整理・発信しながら、みなさんと一緒に学んでいければと思っています。

(内容に不正確な部分があれば、ご指摘いただけると幸いです)

こんな方におすすめ

  • 臨床の医療従事者: AIを診療にどう活かすかのヒントを得たい
  • 研究者: 自身の研究テーマをAIと掛け合わせる方法を模索している
  • 行政や公衆衛生分野の方: 政策立案やシステム構築にAIを取り入れたい
  • 医師、看護師、薬剤師、検査技師、事務職員などすべての医療従事者: AIを味方にして、より良い医療を提供したい

まとめ

AIは、私たちの身近な医療現場で既に使われ始めています。診断や治療だけでなく、研究や事務作業の効率化など、医療を取り巻くあらゆるシーンでAIの可能性が広がっています。

このブログでは、AIを学ぶ上で知っておきたい基礎や具体的な活用法、さらに最新のトレンドなどを共有していきます。ぜひ一緒に、医療AIの世界を理解し、発展させていきましょう。

自己紹介:私とAIの関わり

詳細な経歴や実績につきましては、ぜひLinkedInを参照いただければと思います。

https://www.linkedin.com/in/yohsuketakasaki

ここでは、私とAIとの関わりを中心にご紹介いたします。

大学院時代:社会医学と統計学との出会い

私がAIに関わり始めたのは、大学院時代に遡ります。私は衛生学・予防医学講座(いわゆる社会医学)で博士(医学)を取得しましたが、その基盤となるのは疫学や統計学です。しかしながら、当時はまだ統計学を“道具”として使う段階にとどまり、その背後にある理論や本質まで深く理解していたとはいえませんでした。

それでも、大学院時代に培った疫学や統計学の知識は、その後のキャリアでAIの世界へと踏み込む土台となりました。私は、「AIを深く理解し、使いこなすためには①統計学、②数学、③コンピューターサイエンス(CS)が不可欠だ」と考えていますが、大学院当時、現在のAIの進歩を予想することも、その時学んだ統計学がのちのAIの学習に役立つとは思いもよりませんでした。

数多くのデータに触れ、因果関係やリスク評価を探究する姿勢を身につけたことで、後に数学やコンピューターサイエンスへと学びを広げていく準備が整ったのだと思います。大学院での経験は、医学とAIを結びつける貴重な一歩でした。

厚生労働省での経験:研究と政策のはざまで

厚生労働省に入省し、公衆衛生学の知見を政策に生かす業務に携わっていました。行政官は、2年程度のスパンで他省庁や地方自治体、海外など多様なフィールドを経験することができます。私自身も、行政官としての留学制度を活用し、ハーバード大学で社会疫学、コロンビア大学で経済学の修士課程を修了する機会を得ました。

コロンビア大学の経済学では、想像以上に高度な数学や数理モデルを駆使することに衝撃を受けました。医学研究では対象となる因果関係を明らかにするために、動物実験やRCT(ランダム化比較試験)などで徹底的にバイアスを排除していくのが一般的です。しかし経済学の分野では、「意図的・人為的に貧困状態とする」などの介入実験は倫理的にも実務的にも困難です。そのため、実データから数理モデルを構築して複雑な社会現象を説明しようとします。このように経済学は、医学よりもはるかに数学が多用される分野で、私自身最初は非常に苦労しました。

それでも修士を終える頃には、「数十兆個の細胞が相互作用する人体を扱う医学」と、「数十億の人間が相互に影響を与え合う経済学」は、いずれも“複雑系”を扱うという点で似ていると感じるようになり、経済学のPhD取得も検討するほど面白さに惹かれました(コロンビア大学時代に経済学PhDコースの授業をとって、難しすぎて単位を落とすのではという恐怖に怯えたことがあり、今でも単位が取れてなくて留年するという悪夢を定期的に見ます。。。)。

内閣府でのリスク評価と統計学への再入門

行政官時代の中で、内閣府食品安全委員会事務局という、食の安全を科学的に評価する部署で仕事をしました。そこでは、食品中の危害要因を摂取した場合に、人の健康にどんな影響が生じ、どの程度の確率で起きるかをリスク評価するのが主な業務です。世界中の動物実験や臨床研究のエビデンスを収集し、人間へのリスクを定量的に評価するこの仕事は、“科学者と行政官のあいだ”のような立ち位置でした。

その過程で、疫学・統計学の重要性をあらためて痛感し、体系的に学び直すことにしました。ちょうどそのとき、ある統計学の教科書に出会ったのですが(追って紹介します)、それが私にとっては非常にわかりやすく、統計学の奥深さに強く惹かれるきっかけとなりました。

さらに、食品安全委員会では、食品安全のリスク評価にICTやビッグデータ、最新の数理モデル・統計学手法を取り入れる新部署を立ち上げ、その室長として数理モデルや統計学を実務レベルで駆使する経験を積みました。これは、のちにAIを本格的に学ぶうえでも大きな糧となりました。

行政官としての医療DX・AI推進と起業への想い

厚生労働省では、救急・周産期医療対策室長としてAIを活用した救急医療の政策立案に携わり、また医療情報技術推進室長としていわゆる医療DX(AI活用のためのデータ基盤整備)にも取り組みました。行政の立場で医療IT・DX・AIを推進するうちに、私は「人生の後半は、起業家として医療IT・DX・AIのイノベーションを起こし、社会保障制度を持続可能にするために全力を尽くしたい」という決意を強めていきました。

そこで退官後は、大手IT企業で医療・健康分野の新規事業開発や投資戦略を手がけると同時に、英国のベンチャーキャピタルに出向してスタートアップの動向を学ぶ機会を得ました。そして並行して、会社の許可を得たうえで医療IT・DX・AIに関する2社を起業し、いよいよ本格的にAIの勉強に打ち込み始めました。

AIを学ぶために必要な3つの要素

先述のとおり、AIを習得するには①統計学、②数学、③コンピューターサイエンス(CS)が不可欠だと考えています。私は①統計学については博士課程や業務経験で、②の数学は経済学の修士課程で大学院レベルの知識がありましたので、③のCSを中心に基礎から学びました。

ちなみに、AIを習得するためには、①統計学が一番難しく習得に時間がかかり、②AIに必要な数学は、基本的なAIを動かすだけなら高校レベル(数学I・A・II・B程度)で十分取り組めます。しかし、論文を読んだり、自分で新しいモデルを考案するためには大学教養課程レベル(線形代数、微分積分、統計学、最適化理論の基礎)は少なくとも必要です。さらに研究や最先端を目指すなら大学専門・大学院レベル(多変量解析、数値最適化、確率過程、情報理論、数理統計、グラフ理論、数値解析など)が求められます。

③CSに関しては、Pythonを一から学習しました。幸運にも非常にわかりやすい教材に巡り合ったため(追って紹介します)、効率的に習得できたと思います。プログラミング学習は、構文などを最初から丸暗記するのではなく、小さくてもいいので「動くもの」を作りながら身につけるとモチベーションが続きやすいと感じました。

スタートアップでの挑戦:革新的な医療AIモデルの開発

こうした学びを2019年から続けてきた結果、現在では「自分の作りたいものを作れる」レベルまで成長できました。今では、大学で講義したり研究を行いつつ、スタートアップでは赤ちゃんとお母さんの命を救うデジタル医療機器を開発し、ノーベル賞級(!)と自負するほど革新的なAIモデルの構築にも挑戦しています。スタートアップなので情報公開には慎重を期していますが、論文や学会発表も行っています。

今後は、電子カルテ情報共有サービスや全国医療情報プラットフォームなど医療DXの推進に加えて、スマートフォンやウェアラブルデバイスから常時生成される健康医療データ基盤の整備(PHR:パーソナル・ヘルス・レコード)、次世代医療基盤法の法整備など、医療・健康分野のデータが爆発的に増え、利活用できる時代が来ます。そのデータを活かし、国民が生活のレベルで“価値”を享受できるようにするイノベーションの基盤が、いままさに整いつつあります。

私が代表を務める非営利法人(一般社団法人)では、「いのちの方程式®︎」という時系列データ分析による医療AIモデリング手法の特許を出願中です。これを活用すれば、まさに増え続ける多様な医療データから、具体的なデジタルソリューションを構築できるはずです。行政経験が長かった私ですが、起業家としての後半の人生でも社会課題や地球規模課題を解決する“社会起業家”としての姿勢を貫きたいと決心しています。そのためにも、この「いのちの方程式®︎(時系列データ分析医療AIモデリング手法)」をオープンイノベーションの形で、ぜひ多くの方々に活用していただきたいと思っています。

今後の展望と皆さまへのメッセージ

AI技術をキャッチアップするのは、一人だけでは難しいものです。実際、私も試行錯誤を重ねてきました。ですが、医療の現場で日々奮闘する方々、社会保障の課題をテクノロジーで解決しようとする熱意ある人々、AIを活用して社会課題に挑む行政・スタートアップ・大企業の皆さんには大きな可能性があります。私はそんな方々の伴走者となり、一緒にAIを通じた変革を実現していきたいと考えています。そして、何より、AIネイティブ世代である次世代の若い学生さんにとって、AIはこんなに面白いんだ、AIを使えるようになれば、社会をこんなによくできるんだと思っていただけるきっかけにもなればと思います。

まだまだ手探りの状態ですし、試行錯誤の過程で間違いもあるかもしれません。それでもアントレプレナーシップをもって、一歩でも前に進めていきたいと思っています。もし何かご意見やご興味を持っていただけましたら、LinkedInなどSNSを通じてダイレクトメッセージをいただけるととても嬉しいです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。皆さまと共に、医療とAIの新しい可能性を切り拓いていければ幸いです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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