🤖 Clockwork Hippocrates 🧑⚕️










医師が診察室に歩いてくる患者を見るとき、網膜に映っているのは単なる光の粒(ピクセル)の集まりではありません。「顔色が悪い」「呼吸が浅い」「歩行が不安定だ」という、意味を持った情報のまとまりとして患者の状態を捉えています。無数の細かい情報から本質的な特徴を抜き出し、それらを組み合わせて「心不全の兆候かもしれない」と推論する。これが人間の持つ高度な認識能力です。
人工知能(AI)に現実世界を理解させ、自律的に予測や行動を行わせる「ワールドモデル(世界モデル)」の研究においても、最大の問題は「世界を何で表すか」という点にあります。カメラが捉えた数百万ピクセルの動画や、数十個のセンサーから送られてくる連続データをそのまま処理していては、計算量が膨大になるだけでなく、ノイズに振り回されて本質を見失ってしまいます。
AIが現実の物理世界や複雑な事象を理解するためには、人間と同じように情報を整理し、扱いやすい形に変換しなければなりません。そのための主要なアプローチが、情報を圧縮する「潜在状態」、連続的な出来事を言葉のように切り分ける「トークン」、そして世界を部品とその関係として捉える「オブジェクト中心表現」です。これらの表現手法がどのように機能しているのか、具体的に読み解いていきます。
ピクセルから「意味」を抽出する:潜在状態への圧縮
目の前にある複雑なデータからノイズを削ぎ落とし、より少数の重要な変数(特徴)に押し込めたものを「潜在表現(Latent Representation)」または「潜在状態(Latent State)」と呼びます (Ha and Schmidhuber 2018)。これは、データの背後に潜む「真の要因」を抽出する作業とも言えます。

たとえば、医療現場で撮影される1000×1000ピクセルの胸部X線画像は、そのままでは100万次元という巨大な情報量を持っています。これをAIがピクセルのまま扱うのは、計算負荷が極めて高く非効率です。しかし、深層学習モデルを通じて、「心臓の大きさ」「肺の透過性」「横隔膜の高さ」といった数十個の数値の並びに変換できればどうでしょうか。データは圧倒的に扱いやすくなり、肺炎や心不全といった病変の予測や診断支援(下流タスク)の精度と速度が劇的に向上します。
ここで極めて重要なのは、現実の世界、特に医療データには常に「不確実性」が含まれているという事実です。画像がわずかにぼやけていたり、患者の撮影時の姿勢が少し異なっていたり、機器の設定によるノイズが乗っていたりするだけで、AIの出力が全く変わってしまうようでは、臨床現場では到底使えません。
そのため、現在の強力な生成AIやワールドモデルの多くは、ある状態を「確定したピンポイントの一つの点」として記憶するのをやめました。代わりに、「基本はこのあたりだが、ある程度の広がりを持った確率分布(ばらつき)」として状態を記憶するアプローチをとっています。この「不確実性を持った潜在状態」を計算機上でどのように作り出しているのか。その中核にあるのが、変分オートエンコーダ(VAE)などの生成モデルで用いられる鮮やかな数学的手法です。
状態に「揺らぎ」を持たせる数理:Reparameterization Trick
AIにある画像の潜在状態を推定させたとき、「この変数の値は絶対に5.0です」と自信満々に言い切るのではなく、「基本は5.0ですが、0.2くらいの誤差(ばらつき)を含みます」という柔軟な表現を持たせたいとします。これをプログラム上で実装する際、一番直感的な方法は「平均5.0、ばらつき0.2の確率分布から、毎回サイコロを振ってランダムに値を引いてくる(サンプリングする)」ことです。
しかし、ここで致命的な問題が発生します。AIの学習(ディープラーニング)の要である「誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)」は、出力結果の誤差をネットワークへ逆戻りさせて微分を計算していくことで成り立っています。途中に「ランダムにサイコロを振る」というサンプリング操作が挟まると、そこで計算の道筋が途切れ、微分ができなくなってしまうのです。
このジレンマを回避し、確率的な広がりを持ちながらもAIが正しく学習(微分)できるようにした画期的な解決策が、「Reparameterization Trick(再パラメータ化のトリック)」と呼ばれる手法です (Kingma and Welling 2013)。
まず、記号を使わずに日本語だけでこの式の構造を見てみます。
最終的な状態 = 予測した基本状態 + (予測したばらつきの幅 × 標準的なランダムノイズ)
確率分布の箱の中から直接値を引いてくるのではなく、「確定した値」と「外から持ってきたランダムなノイズ」を後から足し合わせるという別ルートを通ります。こうすることで、AIのネットワークから見れば単なる足し算と掛け算になり、微分可能な計算経路がしっかりと保たれる仕組みです。これを正式な数学記号で書くと、次のようになります。
\[ \mathbf{z} = \underbrace{\boldsymbol{\mu}}_{\text{基本状態}} + \underbrace{\boldsymbol{\sigma} \odot \boldsymbol{\epsilon}}_{\text{ばらつきの幅} \times \text{ノイズ}} \]
| 記号 | 読み方 | 意味 | 型・次元 | 今回の例での具体値 |
|---|---|---|---|---|
| \(\mathbf{z}\) | ゼット | 最終的に決定される潜在状態(特徴ベクトル) | \(d\) 次元のベクトル | \(\begin{pmatrix} 5.3 \\ 1.9 \end{pmatrix}\) |
| \(\boldsymbol{\mu}\) | ミュー | AIが入力データから予測した「基本となる状態(平均値)」 | \(d\) 次元のベクトル | \(\begin{pmatrix} 5.0 \\ 2.0 \end{pmatrix}\) |
| \(\boldsymbol{\sigma}\) | シグマ | AIが入力データから予測した「状態のばらつき(標準偏差)」 | \(d\) 次元のベクトル(各要素は0以上) | \(\begin{pmatrix} 0.2 \\ 0.1 \end{pmatrix}\) |
| \(\odot\) | アダマールセキ | 要素ごとの掛け算(対応する場所の数字同士を掛ける) | 演算子 | – |
| \(\boldsymbol{\epsilon}\) | エプシロン | 平均0、標準偏差1の標準正規分布から発生させたランダムなノイズ | \(d\) 次元のベクトル | \(\begin{pmatrix} 1.5 \\ -1.0 \end{pmatrix}\) |
初出の数学記号について一つ解説します。\(\odot\) は「アダマール積」と呼びます。ベクトル同士の掛け算にはいくつか種類がありますが、これは「同じ場所にある数字同士を単純に掛け合わせる」という一番素直な掛け算です。たとえば \(\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix} \odot \begin{pmatrix} c \\ d \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a \times c \\ b \times d \end{pmatrix}\) となります。
この式を声に出して読み下すと、「ゼット イコール ミュー プラス シグマ アダマール積 エプシロン」となります。意味としては、「ネットワークが予測した基本状態(\(\boldsymbol{\mu}\))に対して、同じく予測されたばらつき(\(\boldsymbol{\sigma}\))に外部のランダムなノイズ(\(\boldsymbol{\epsilon}\))を掛け合わせた揺らぎを足し込むことで、最終的な潜在状態(\(\mathbf{z}\))を作る」という操作をしています。
式の分解と手計算による実演
この式が実際にどのような計算を行っているのか、次元の数 \(d=2\) (2つの特徴量だけを抽出する)という非常にシンプルな設定で、具体的な数字を入れて内側から順番に計算してみましょう。
仮に、ある患者の検査データから、AIが2つの潜在的な特徴を抽出しているとします。例えば、\(z_1\) を「心機能の低下度合い」、\(z_2\) を「肺の水分貯留度合い」と見立ててみましょう。
1. 基本状態とばらつきの予測
まず、AIのネットワークは、入力データ(画像や数値)をもとに、最もありえそうな基本状態 \(\boldsymbol{\mu}\) と、その推論の不確実さ \(\boldsymbol{\sigma}\) を出力します。
\(\boldsymbol{\mu} = \begin{pmatrix} 5.0 \\ 2.0 \end{pmatrix}\) (おそらく心機能低下は5.0、肺水分は2.0くらいだろう)
\(\boldsymbol{\sigma} = \begin{pmatrix} 0.2 \\ 0.1 \end{pmatrix}\) (ただし心機能の評価には0.2くらい、肺水分には0.1くらいのブレがあり得る)
2. ランダムノイズの発生と掛け算
次に、標準正規分布(平均0、ばらつき1のきれいな山の形の分布)から、コンピュータの乱数生成器を使って適当なノイズ \(\boldsymbol{\epsilon}\) を引いてきます。今回はたまたま \(\begin{pmatrix} 1.5 \\ -1.0 \end{pmatrix}\) が出たとします。これに、先ほど予測したばらつき \(\boldsymbol{\sigma}\) を要素ごとに掛け合わせます。
\[ \begin{aligned} \boldsymbol{\sigma} \odot \boldsymbol{\epsilon} &= \begin{pmatrix} 0.2 \\ 0.1 \end{pmatrix} \odot \begin{pmatrix} 1.5 \\ -1.0 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 0.2 \times 1.5 \\ 0.1 \times (-1.0) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 0.3 \\ -0.1 \end{pmatrix} \end{aligned} \]
3. 最終的な状態の決定
最後に、基本状態にこの計算した「揺らぎ」を足し合わせます。
\[ \begin{aligned} \mathbf{z} &= \begin{pmatrix} 5.0 \\ 2.0 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 0.3 \\ -0.1 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 5.3 \\ 1.9 \end{pmatrix} \end{aligned} \]
この計算により、基本状態の \((5.0, 2.0)\) から少しだけズレた \((5.3, 1.9)\) という値が、今回の潜在状態 \(\mathbf{z}\) として確定しました。もし次にもう一度同じ入力が来ても、ノイズ \(\boldsymbol{\epsilon}\) が変わるため、\((4.8, 2.1)\) などのわずかに違う値が生成されることになります。
なぜこの形なのか、どこに限界があるのか
なぜ、わざわざノイズを足すような迂遠なことをするのでしょうか。その最大の理由は、「AIに未知のデータへの強靭な対応力(汎化性能)を持たせるため」です。
もしノイズを足さず、常に \(\mathbf{z} = \boldsymbol{\mu}\) としてピンポイントで学習してしまうと、AIは訓練データと全く同じ値が来たときしか正しく機能しなくなります(これを過学習と呼びます)。学習のたびにあえて毎回ランダムなノイズを乗せ、少し違う値を経験させておくことで、潜在空間の中に「滑らかな意味のつながり」が生まれます。本番環境で5.0の周辺である4.8や5.3といった初めて見るデータが入力されても、AIはパニックを起こさずに「同じような状態だ」と解釈し、妥当な推論ができるようになるのです。
一方で、この表現方法には限界もあります。式を見るとわかるように、一つの平均値 \(\boldsymbol{\mu}\) を中心とした左右対称のばらつき(ガウス分布)を仮定しています。そのため、「Aという病気かもしれないし、全く違うBという病気かもしれない」といった、複数のピークを持つ(多峰性の)複雑な状態を表現するのは非常に苦手です。
また、誤読の罠として、\(\mathbf{z}\) の値がそのまま物理的な単位(血圧が何mmHgなど)を表していると錯覚しやすい点にも注意が必要です。潜在状態はあくまでAIの内部で作られた相対的な「特徴の座標」に過ぎず、人間が直接解釈できる単位とは異なります。
連続する世界を「言葉」に切り出す:トークン化の力
前節で見たように、画像などの複雑なデータを潜在状態へ圧縮することで、巨大なデータは扱いやすい少数の数値ベクトルへと変換されます。しかし、時間が絶え間なく流れる動画データ(たとえば心拍ごとに変化する超音波エコー動画)や、ロボットアームの滑らかな動きといった「連続的なデータ」を扱う場合、これをさらに一歩進めて「離散的(デジタル)な記号」に変換するアプローチが強力な効果を発揮します。これが「動画トークン(Video Token)」や「行動トークン(Action Token)」と呼ばれる概念です。

言語モデルの成功の鍵:意味の離散化
現在、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が、まるで人間のように自然な文章を生成し、驚異的な推論能力を発揮しているのはなぜでしょうか。その根底には、AIが人間の言葉という「あらかじめ意味ごとに切り分けられた記号(トークン)」を学習しているという事実があります (Vaswani et al. 2017)。
現実の果物には様々な色や形がありますが、「りんご」と「みかん」という単語の間に、中間の果物が無限に存在するわけではありません。人間の言葉は明確に区切られた「離散的」な存在です。だからこそ、AIは「『りんご』の次には『食べる』という単語が来やすい」といったように、明確な区切りを持った記号の並びから確率的なルールを見つけ出し、論理を構築できるのです。
物理世界を「単語」に変換する:ベクトル量子化
AIの研究者たちは現在、この言語モデルにおける大成功の仕組みを、デジタルのテキスト空間から現実の物理世界へとそのまま拡張しようと試みています。
たとえば、循環器内科で心機能を見るための超音波エコー検査を想像してください。この滑らかな動画データがAIに入力されたとき、最先端のワールドモデルはそれを単なる連続的なピクセルの変化として捉え続けることはしません。代わりに、動画の短い時間区切りごとに、「心室が収縮し始めた(トークンA)」「僧帽弁が閉じた(トークンB)」というように、特定の「単語(トークン)」を割り当てていきます。連続的な波を、意味を持った階段状の記号へと変換するこの技術は「ベクトル量子化(Vector Quantization)」と呼ばれ、VQ-VAEなどの手法によって実現されています (van den Oord et al. 2017)。
このトークン化の力は、AIが自律的に動くための「行動」にも応用されます。たとえば手術支援ロボットのアームを制御する際、「右に3.24度、上に1.51度動かす」という無限に存在する連続値(アナログな座標)をそのまま学習させると、予測の選択肢が無限にあるため計算が極めて複雑になります。そこで、これを「右上に少し動かす」といった明確な「行動トークン」に変換してしまいます。
言語モデルの推論力を現実世界へ
視覚情報や行動を離散的なトークンへと切り出すことで、決定的なパラダイムシフトが起こります。それは、AIが言語モデルと全く同じ推論の仕組みを利用して、物理世界における「未来」を予測できるようになるということです。
単語の並びから次の単語を予測するように、「この動画トークンの並びが来たら、次はこの病態を示す動画トークンになるはずだ」「今の患者の身体状態(状態トークン)なら、次はこの処置(行動トークン)を選ぶべきだ」と、確率的に未来を予測し、最適な行動を計画することが可能になります。連続する複雑な現実を「言葉」のように読み解くこのアプローチが、次世代の自律型AIを支える大きな武器となっています。
世界を「部品とその関係」で理解する:オブジェクト中心表現
前節で触れたトークン化によって、AIは時間的な変化や一連の出来事を捉えやすくなりました。しかし、現実空間を深く理解するためには、もう一つの重要なステップが必要です。人間が診察室や病室を見渡したとき、「ここは白くて、隣のピクセルは茶色で…」と色の粒を一つずつ認識しているわけではありません。私たちは瞬時に「机がある」「その上にパソコンがある」「患者がベッドに座っている」と、世界を意味のある「物体(オブジェクト)」の集まりとして認識しています。

AIにもこの人間と同じような見方をさせるための技術が「オブジェクト中心表現(Object-Centric Representation)」です (Locatello et al. 2020)。従来のAIは、どれほど複雑な画像であっても、全体を一つの巨大な潜在ベクトル \(\mathbf{z}\) に無理やり押し込んでいました。これを「もつれた表現」と呼びますが、これでは背景と人物、あるいは重なり合った臓器の区別がAI内部で曖昧になってしまいます。
画像を「スロット」に分割する仕組み
そこでオブジェクト中心表現では、画像を一つの塊として扱うのではなく、AIの内部に複数の「スロット(部品入れ)」を用意します。そして、入力された画像から「これは背景」「これは人物」「これは医療機器」といった具合に、個別のオブジェクトの特徴を自動的に分離し、それぞれのスロットに格納させます。これにより、AIは世界を「独立した部品の寄せ集め」として明確に理解できるようになります。
さらに、これらの切り出されたオブジェクトが、互いにどのような位置関係や論理的な繋がりを持っているかを表すネットワーク構造を「シーングラフ(Scene Graph)」と呼びます。単に「患者」と「ベッド」があるというだけでなく、「患者(オブジェクトA)が、ベッド(オブジェクトB)の上に、横たわっている(関係性)」というように、現実世界の状況を構造化されたデータとして整理するのです。
構成的汎化:未知の状況を推論する力
世界をオブジェクトごとに切り分けて表現することの最大の恩恵は、「構成的汎化(Systematic Generalization または Compositional Generalization)」という極めて高度な推論が可能になる点にあります (Lake et al. 2017)。

「青いリンゴ」を想像する能力
構成的汎化とは、「既に知っている部品(概念)」を論理的に組み合わせて、「今まで一度も見たことのない新しい全体像」を理解する能力のことです。たとえば人間は、「青い」という色の概念と、「リンゴ」という果物の概念を知っていれば、これまでの人生で「真っ青なリンゴ」を見たことがなくても、それがどのようなものかを瞬時に想像し、理解することができます。部品が独立して記憶されているからこそできる技です。
医療現場における構成的汎化の重要性
医療の現場において、この構成的汎化の能力は極めて重要になります。日々の臨床では、教科書に書かれている通りの典型的な症状を示し、過去のデータと全く同じ合併症の組み合わせを持つ患者が現れることはむしろ稀です。
もし、「糖尿病」の知識と「間質性肺炎」の知識を持つAIが、それらの特徴を一つのベクトル \(\mathbf{z}\) の中にぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて記憶していたとします。すると、両方の疾患を同時に合併した患者(訓練データには存在しなかった未知の組み合わせ)に出会ったとき、AIはどう対応していいかわからず、推論が破綻してしまいます。
しかし、世界をオブジェクト(個別の病態、臓器の状態、検査値など)として分離して表現していれば話は別です。「糖尿病のオブジェクト」と「間質性肺炎のオブジェクト」が、同一患者という一つのシーングラフ内で同時に発生し、影響し合っている、という構成的な推論が可能になります。これにより、訓練データに存在しなかった稀な合併症の組み合わせに対しても、既存の知識のピースをパズルのように組み立て直すことで、妥当な予後予測や治療計画の立案を行うことができるようになるのです。
まとめ:AIは世界をどのように表すか
本記事では、AIが複雑な現実世界をどのように解釈し、記憶しているのかについて、現在の最先端を支える3つの重要な表現手法を見てきました。
- 潜在状態: ピクセルの集合から意味のある特徴を抽出し、そこにあえて確率的な「揺らぎ」を持たせることで、わずかな変化やノイズにも動じない強靭さ(ロバスト性)を獲得します。
- トークン化: 連続して流れる時間や行動を「離散的な言葉」に切り出すことで、大規模言語モデルが持つ強力な論理的推論力を物理世界に適用し、未来を予測可能にします。
- オブジェクト中心表現: 世界を独立した「部品とその関係性」として捉えることで、未知の状況や未経験の組み合わせに遭遇しても、部品を組み立てて論理的に対処する「構成的汎化」を実現します。
AIが世界を何で表すか。これらの表現手法の進化は、単なるデータの圧縮技術や効率化の手段ではありません。それは、AIが私たちの生きる複雑で不確実な現実世界をどのように解釈し、そこに潜む未知の事象にどう立ち向かうのかという、「知能の土台」そのものを形作るものなのです。これらの「眼」を持つことで、AIは単なるパターン認識の機械を超え、未知の病態に対しても柔軟な推論ができるパートナーへと進化を続けています。
参考文献
- Ha, D. and Schmidhuber, J. (2018) ‘World models’, arXiv preprint arXiv:1803.10122.
- Kingma, D.P. and Welling, M. (2013) ‘Auto-encoding variational bayes’, arXiv preprint arXiv:1312.6114.
- Lake, B.M., Ullman, T.D., Tenenbaum, J.B. and Gershman, S.J. (2017) ‘Building machines that learn and think like people’, Behavioral and Brain Sciences, 40, p. e253.
- Locatello, F., Weissenborn, D., Unterthiner, T., Mahendran, A., Heigold, G., Uszkoreit, S., Dosovitskiy, A. and Kipf, T. (2020) ‘Object-centric learning with slot attention’, Advances in Neural Information Processing Systems, 33, pp. 11527–11538.
- van den Oord, A., Vinyals, O. and Kavukcuoglu, K. (2017) ‘Neural discrete representation learning’, Advances in Neural Information Processing Systems, 30.
- Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., Uszkoreit, J., Jones, L., Gomez, A.N., Kaiser, L. and Polosukhin, I. (2017) ‘Attention is all you need’, Advances in Neural Information Processing Systems, 30.
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