今回は、社会の価値の総量を増やすための、デジタル化の真の価値について説明したいと思います。
日本の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は、社会全体の高齢化や生活習慣病等の増加といった課題に対応するため、大きな変革を迎えています。2021年の医療費は約44.2兆円1にのぼり、医療DXがこれらの費用を効率的に管理し、質の高い医療サービスを提供する手段として期待されています。
政府はこのデジタル化を推進するために様々な施策を打ち出しており、例えば「デジタル庁」の設立や「マイナンバーカード」の普及、さらには地方創生とデジタル技術の融合を図る「デジタル田園都市国家構想」などが進められています 。これらの政策により、地方の医療環境の充実や、医療データの一元管理が進むことが期待されています。
日本の医療において、医療機関における人件費は医業収益の50~60%程度で、病院のコストの半分以上を占めています2。このような労働集約的な産業である医療において、デジタル化による労働の効率化、つまり、紙やファックスを削減したり、情報の連携などでも、ある程度の経済的効果は期待できるでしょう。しかし、それが真のデジタル化の価値ではないと筆者は考えています。むしろ、政府が膨大な予算をマイナンバー関連に支出して、その効果が紙を減らすだけでは、費用対効果が悪すぎると言わざるを得ません。
また、労働集約的産業におけるデジタル化による効率化によりもたらされる価値には、上限もあります。例えば、今まで10,000円の人件費がかかっていた業務があるとします。それがデジタル化による効率化(例えば、データ入力の自動化)により、人件費が1,000円削減できたとします。これが、デジタル化の価値であり、このデジタル化サービスが設定できる価格の上限でもあります。端的に言えば、1,000円節約できるサービスに、2,000円払う人はいない(経済合理性がない)ということです。
それでは、デジタル化が新たな価値を創出する場合を考えてみます。医療の文脈では、新たな治療法や治療薬の開発、最近注目されているデジタル医療機器のようなものです。これらは、だれもが求める健康に対して付加価値をもたらすものです。これらによって、愛する人や家族の命が救えたり、より健康になるなら、上記のような元々の価格に拘束されない金額を支払うのではないでしょうか。つまり、デジタル化による真のイノベーションによって、世の中の価値の総量・幸福・効用が増加しているということです。
私は、デジタル化による価値や恩恵を、単なる効率化に矮小化するべきではなく、そこから創出されるイノベーション・価値に注目し、投資すべきであると考えています。
参考
- 厚生労働省:令和3(2021)年度 国民医療費の概況https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/21/dl/data.pdf ↩︎
- 厚生労働省「医療経済実態調査のデータ分析」https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000997352.pdf ↩︎
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